エロSS速報

エッチなSSや小説をまとめています。R-18。

金剛『ッ結婚カッコカリ!!?』 比叡「ッヒエエエエエエエ!!?」

2019/12/27   エロSS | コメント(1)   
作品名:艦これ
キャラ:提督 明石 不知火 大井 響 青葉 川内 扶桑 呉明石 武蔵 深海提督 雷 瑞鶴 加賀 山城 比叡 龍驤 曙 吹雪 島風 赤城 北上 大和 暁 霞 防空棲姫 五月雨 木曾 時雨 龍田 翔鶴 金剛 夕立 那智 霧島 天龍 神通 長門 レ級 球磨 陸奥 那珂 ?? 榛名 多摩 鳳翔 妙高 電 妖精さん 赤木 艦娘達 伊勢 羽黒 ??? 清霜 ソ級 妖精 夕張 隼鷹 睦月 戦艦達 少年 深海棲艦&039s 吹雪改ニ 摩耶 日向 リ級
作者:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
文字数:88118



1 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:11:13ID: fdOXkjWP0

いろんなss見て昂ぶってわっしょい
キャラ崩壊、鬱展開あるかも




2 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:12:40ID: fdOXkjWP0

曙「嘘でしょ…」

長門「私達の鎮守府にもとうとう…」

武蔵「なんて…ことだ…」

摩耶「おい青葉…テメー、嘘じゃねーだろうな…?」

青葉「残念ながら…事実です…」

艦娘達『『『うわああああああああああああああああああああああああああああッ!!??』』』

深雪「あの司令官と結婚!?」

夕立「無理っぽい!?絶対無理っぽい!?」

時雨「考えただけで悪寒が止まらないよ…」

金剛「………」

比叡「ああ!?金剛姉様が白目を剥いて気絶を!!?」

霧島「おいたわしや…。恐らく私の計算では、司令官と結婚した自分の姿を想像してしまったのでしょう…うぷっ」

天龍「うぅ…龍田ぁ…」

龍田「大丈夫よ天龍ちゃん泣かないで。あの男が天龍ちゃんに結婚を申し込んできたら、すぐぶち殺してあげるから…」

神通「…でも、あの司令官の性格からして…私達軽巡には結婚を申し込んで来ないんじゃないでしょうか…?」

艦娘達『『『ッ!!?』』』

球磨「…確かにそうクマ…。申し込まれるとしたら…」

多摩「戦艦か空母の皆さんだと思うにゃー…」

戦艦達『『『ッな!?』』』

空母達『『『ッえ!?』』』

加賀「ちょっと司令室を爆撃してきます」

赤城「加賀さん、私も付き合うわ」

扶桑「不幸だわ…本当に不幸だわ…」

伊勢「嫌だ…あんな男と結婚なんて絶対に嫌だ!!?」

大和「うわああああああああん!!?」

武蔵「泣くな大和!?おのれ…あのクソ野郎め…!!!」


きゃー、わー、ブォーン…


提督「……」

3 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:14:26ID: fdOXkjWP0

提督「さて、対戦車砲装甲で出来た司令室の扉を閉めて、鍵もかけておこう」

提督「カーテンも閉めておいて…。彼女達が落ち着くまでは、今日の任務は中止だな…」

提督「まったく青葉め…。こうなることが分かっていたから、ケッコンカッコカリの書類は厳重に保管していたのに持ち出しおって…」

提督「…はぁ…」

この鎮守府に着任して、はや5年。

何もないところから始まったこの場所も、今では随分大所帯になった。

艦娘達とも良好な関係を築きあげてきたはずだ…。

しかし、半年ほど前から彼女達の様子は急変。

私は、めちゃくちゃ。

嫌われてしまった。

原因は不明。きっかけも分からない。

…いや、本当は元から嫌われていたのかもしれないな。

…そりゃそうだ。

自分達には命がけの命令を下しておきながら、本人は陸の上の安全な場所でぬくぬくと過ごしてしたのだから…。

提督「…やれやれ…」

廊下から艦載機の飛ぶ、プロペラ音が聞こえる。
それは徐々に音量を上げ、こちらに向かって近づいてくる。

最近、この手の威嚇がよくある。

実際に司令室に突入してくることはないが、怖いものは怖い。

誰が飛ばしてきてるか目星はついてるが、彼女達に聞いても知らないの一点張りだ。

提督「…念のためっと…」

司令室の机の中に隠れる。
この机にも対戦車砲装甲の鉄板が内蔵されているが、一航戦の爆撃機の前では紙切れに等しいだろう。

しかし気休め程度にはなる。

私は机の中で、いつものように、爆撃機が司令室を横切るのを待った。



???「爆撃しなさい」


直後、司令室の扉が轟音とともにぶち破られ、まばゆい閃光がーーーーーーーーー

4 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:21:34ID: fdOXkjWP0

提督「ッ!!?」

明石「あっ!?提督!!よかった、目が覚めましたか!!」

提督「あ…明石か…。…ここは…?」

明石「ドックの奥の倉庫です…。安心してください、ここなら誰もきません」

提督「すまない…また助けて貰ったみたいだな」

明石「いえいえ。当然のことをしたまでです」

彼女は明石。

今の私の唯一の味方。

他の艦娘と違い、彼女だけは私に未だ忠誠を誓ってくれている…

提督「…ッう…まさか、本当に爆撃してくるとは…」

明石「…許せないです…。もう犯人は分かってるんでしょ提督!!私に任せてください!!解体してやります!!」

激昂する明石。
なだめようと右腕を動かそうとして…気づく。
体全身が包帯でグルグル巻きであることに。
この包帯とこすれてチリチリと痛む感覚は、おそらく火傷だろう。
全身火傷。

…まぁ問題ない。

提督「おちつけ明石…。彼女達も…。赤城も加賀も大切な仲間なんだ…。俺は彼女達を傷つけたくない」

明石「でも!?」

提督「…別にいいさ。本気で彼女達が爆撃したのなら、この体が五体満足のはずがないんだ…。彼女達はきっと手加減してくれたのだろう…」

明石「全身に火傷もしてるのに!?一歩間違えれば、いえ、私が助けなければ、提督は死んでましたよ!!?手加減だなんてそんなの彼女達を守る理由にはなりません!!!」

提督「…彼女たちが怒る原因はきっと私にあるんだ…。そしてその原因に気付かず、のうのうと過ごしてるから、彼女達の怒りはどんどん募っているんだ…」

提督「私達は同じ戦場で戦う仲間だ。だがそれ以上の絆で結ばれた家族だ。それを切り捨てることは、例えどんなことがあっても、私は出来ない」

明石「…そのお考えは変わらないのですね…」

提督「…あぁ」

…明石は振り上げた工具を静かに下ろす。

明石「…今、司令室は妖精さん達が大至急で復旧工事をしてます…。日暮れまでには元どおりになるでしょう…」

提督「わかった、ではそれまでここで匿って貰っていいか?」

明石「構いません、ここなら大丈夫です」

提督「すまないな…明石…ありがとう…」

明石「いえいえ…」

明石(…………………)

5 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:23:31ID: fdOXkjWP0

加賀「やりました」

赤城「さすが加賀さん、見事な爆撃でしたわ」

瑞鶴「提督は死んだのね!!!」

加賀「いえ…さすがにそこまですると、私が大本営の命令で解体されてしまいます」

赤城「大切なのは、私達正規空母が、どれだけ提督を嫌っているのかその体で分かってもらうことです」

加賀「ここまでされたら、正規空母にケッコンを申し込んでくることはないでしょう」

加賀「【正規空母】には…ね」

戦艦達『ッ!!!?』

軽空母達『ッ!!!?』

加賀「それに、あの提督が効率だけでケッコン相手を選ぶとも思えないわ…。駆逐艦達も今のうちから、しっかりとアピールしておくことね」

赤城「そうですね、どれだけ提督を嫌ってるか…。きちんと伝えないと…」

瑞鶴「一番、伝えられなかった艦娘が、ケッコンを申し込まれそうね…」

艦娘達『ッ!!!???』


ー 提督!!提督はどこ!!半殺しにしてやる!! ー

ー 深海の奥に沈めて、溺死寸前まで追い詰めてやるでち!!! ー

ー もう司令官の命令では一切、出撃しないのです!! ー

ー ヒャッハー!!ボイコットだぜい!! ー

大井(…………………)

6 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:26:22ID: fdOXkjWP0

提督「やれやれ…包帯を巻いたままでは動きにくいな…。外すか」

提督「時刻は0300。この時間なら出歩いてる艦娘はごく僅かだろう。爆撃された司令室の修理も終わっているだろうし、そろそろ移動を開始するか」

提督「…明石には感謝だな…。お陰で今日一日、見つからずに済んだ…」

提督「…よし!!いくぞ!!」

工房を足音を立てずに、飛び出す。

目指すは司令室。

明かりのついていない、月明かりのみに照らされた廊下を駆け抜ける。

提督(難所があるとしたら二ヶ所)

一つ、艦娘用のトイレの前。
夜間にトイレに立つ艦娘と遭遇する可能性がある。
二つ、軽巡寮の前。
夜は…奴がいる…。

提督(どちらも迂回したいが、残念ながら我が鎮守府の構造上、それは不可能…。行くしかない)

小さな寝息が響く駆逐艦寮を通り過ぎ、第一の難所へ。

提督(…ホッ)

幸い、トイレは明かりが灯っておらず、誰もいないようだ。

一気に通り過ぎ、次の難所へ。

??「あれ?提督?」

体がビクリと震える。

その声は見知った声だった。

少し昔なら大好きな声だった。

彼女の明るさにどれだけ助けられてきたか分からない。

この鎮守府創設すぐから、尽力してくれた、私の右腕のような存在だった。

そんな、彼女が。

??「…ふーん…。提督も夜出歩くのが好きなの?私と一緒か、吐き気がするね」

川内が。

??「提督が悪いんだよ?こんな時間に出歩くから。…運の悪さを呪ってね」

覆面を被り、姿を隠し、剥き出しの殺気をこちらにぶつけてくる。

7 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:28:48ID: fdOXkjWP0


提督「…川内…。教えてくれないか?…いったい、何がいけなかったのだ…私の…」

提督「君達の態度が変わってから私はずっと考えてきた。考えなかった時はない、片時も忘れず、ずっと考えている、今だってそうだ」

提督「だが、分からないんだ…分からないんだよ、川内。教えてくれ、わたしは君たちに何をしてしまったのだ??…教えてくれ、私はこの命をかけても、償う覚悟がある」

??「川内??誰のこと??あなたの眼の前にいるのは、ただの通りすがりの覆面の艦娘だよ。川内じゃない」

??「そしてその質問の答えだけど。知らないよそんなの。強いて言うなら、提督の存在自体かな?」

提督「ッ……」

提督(彼女達が姿を隠すのには訳がある…。身元がバレた場合、私がその者に翌日解体命令を下すのを恐れているのだ。…そんなこと絶対しないのに…)

提督(また私を本気で殺すことまではしないだろう。本気で殺したら、大本営の捜査が入り、十中八九、その艦娘は捕まり、解体される。隠ぺいしようものなら、共同犯ということで、全員解体されるかもしれない)

??「まぁそうだよね、そう思うよね」

提督「…え?」

??「殺されないとか、考えてたでしょ」

提督「……」

??「他の子はそうかもしれないけど、私は違うよ。…後先なんて考えない。今、再興にムカついてるから、目の前のあなたを殺す」

そう言うと彼女は被っていた覆面を脱ぎ去った。

川内「もう隠す必要なんてないよね。バレてるみたいだし」

提督「川…内…」

川内「気持ち悪い、醜い、これ以上言葉を交わすこと自体、吐き気がする」

川内「サクッと、殺すね」

彼女は両手にクナイを構える。

川内改二「…いくよ」

提督(ッ改二!?正気か!!?)

8 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:32:57ID: fdOXkjWP0

おそらく、彼女との巡り合いは偶然ではない。

どこに隠れていても、夜になれば司令室に私が帰ると考えた彼女は。

その進行ルートにずっと張り込んでいたのだ。

おのれの武器を研ぎ、殺気を隠し、息を潜め。

私を殺すために。

目にも止まらぬ早さで私に接近してくる川内の動きを止めたのは、私の行動ではない。

私の後方から放たれた、川内以上の殺気を放つ相手の出現によるものだ。

提督(ッ!!?不知火!!?)

川内「ッ!!??」

不知火「…………」

すでに艦装を展開しており、砲塔は私に照準を合わせている。

目があう。

絶対零度の視線と、私の視線がぶつかった。

条件反射的に体を伏せ、縮こまった私のすぐ上を、轟音とともに不知火が放った砲弾が飛ぶ…!!!

頭に被っていた帽子が衝撃で飛び、背中を莫大な衝撃と熱が襲った…!!

提督「ッあああああ!!?」

鼓膜を直接叩くような爆音と共に、体がコマのように回転して吹き飛ぶ。

川内(小破)「ッガ!?…ッちゃんと狙えくそがああああああああ!!??」

わたしが砲弾を間一髪でかわしたことにより、外れた砲弾は川内に直撃した。
…川内は激昂する。

不知火「不知火に何か落ち度でも??」

川内「ッぶっ殺す!!!」

不知火「やってみなさい」

後ろで始まる戦闘に、鎮守府中の電気が付き、何事かと廊下を駆ける足音がどんどん増えていく。

提督(ッだが…チャンスだ…)

司令室はもう直ぐ目の前。
這いつくばっている体勢からなんとか身体を起こし、司令室へ向かう。

9 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:34:38ID: fdOXkjWP0

そこにあったのは分厚い鉄の扉だった。


提督(ッ!!?なんだこれ!!?指令室の扉ってこんなんだっけ!!?)


妖精さん「!!!!」

提督「!君は…!」

不知火(中破)「ッうぐ!!?」

川内「はぁ…はぁ…ッ!?しまった!?あのクソ提督逃げてんじゃねーか!!?」

川内がこちらを睨むと同時に、妖精さんが扉を開け放つ。

私が指令室へ飛び込むのと、妖精さんが扉を閉めるの、そして激昂した川内がしまった扉へと衝突するのはほぼ同時だった。

川内「ーーーー!!!ーーーーー!!!」

外で何か叫んでる声が聞こえるが…届かない。
どうやらこの扉、防音機能が付いているようだ。

続いて、指令室全体を揺らすような衝撃が二、三度響く。

おそらく、川内が扉へ向かって砲撃したのだろう。
しかし、扉はビクともせず、天井からススを落としたのに留まった。

提督「…ッはぁ…はぁ…。助かったよ、ありがとう妖精さん…」

妖精「」(`_´)ゞビシッ

敬礼を返してくる彼女?に礼を告げる。

幸いなことに、妖精さんは昔と変わらず、わたしと良好に接してくれている。
まぁその行動はとても気まぐれだが。

提督「艦娘の砲撃でもビクともしないドア…か。…まるで彼女達を拒絶してるようで、本当は嫌だが……今だけはありがたい、ありがとう」

妖精「」d(^_^o)いいってことよ

提督「ぐっ…それにしても、川内も不知火も、私に姿を晒しても平然と殺しにかかってくるとは…。今度からあの2人には気をつけなければ…」

妖精「」(´・_・`)つ包帯

提督「あぁ、助かるよ妖精さん…。いてて…まずは傷の手当をしないとな…」

10 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:37:51ID: fdOXkjWP0

ー翌朝ー


神通「姉さん、落ち着きましたか?」

川内「…うん。落ち着いた」

球磨「バカな奴クマ。素性がバレてるのに提督を殺しにかかるなんて…」

多摩「気持ちはわからなくもないけどにゃー」

川内「…ん?」

提督「…………」

私が食堂に入った瞬間、それまで明るい雑談に包まれていた食堂は一転して静寂に包まれる。

提督「赤城、加賀、おはよう」

赤城・加賀「…………………………」

提督「川内、神通、球磨、多摩、みんな、おはよう」

艦娘達「……………………」

誰も挨拶は返してこない。

川内「…ねぇ、なんでわたしの解体命令は出ないの?あんなことしたのに、目障りでしょう?早く解体すれば?」

提督「川内を目障りだと思ったことは一度もないさ」

川内「自分が昨日襲われたこと忘れたの?」

提督「あぁ、襲われたさ。覆面をかぶった誰かにな。…だが、わたしは生きている。それなら、別に構わないさ。犯人探しもしないし、犯人を罰しもしない」

川内「チッ…」

舌打ちして目を背ける川内から目線を切り、食堂を見渡す。

11 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:39:22ID: fdOXkjWP0

提督「今日は残り少なくなってきた資材を調達するために、遠征を中心とした作戦を実行する。第1艦隊や第2艦隊は今日の出撃はなしだ。日ごろの疲れをゆっくり癒してくれ」

返事は…ない。

提督「…ッ作戦内容は以上だ。…みんな食事を再開してくれ」

天龍「あ~あ、飯がクソまずくなっちまったぜ」

龍田「はぁ…朝からテンション下がるわぁ~…。お部屋に帰りましょ?天龍ちゃん」

北上「帰るよ大井っち、ご飯が反吐の味がする」

大井「は…はい、北上さん」

電「ごちそうさまなのです」

暁「帰るわよ」

響「ハラショー」

一斉に席を立ち、食器を片付けようとする艦娘達。
料理が残っているのもお構いなく、全員が全員、一刻も早くこの場所から出ようと動き出す。

提督「いっ、言い忘れたが、私はここでは朝食はとらない!!…今日は司令室で食べることにするよ」

こちらを睨む鳳翔さんの視線から逃れるように私は食堂を足早に出る。
横目で確認すると、私が出て行くのを見届けた艦娘達は静かにまた自分の席に戻り、食事を再開した。

提督(今日の朝食は抜きだな…はぁ…)

今日もまた辛い1日が始まる。

12 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:42:05ID: fdOXkjWP0


明石(…………………………………………)

不知火「……………………………」

明石「…こんな所に何の用ですか?不知火さん」

不知火「…とぼけないでください」

明石「…」

不知火「『艦娘の好感度を正・負逆転させるスイッチ』」

明石「ッ!」

不知火「これを作ったのは明石さんですよね…?」

明石「…なんのことやら…」


不知火「私は司令のことが嫌いです。大っ嫌いです。視界に入るだけで砲塔が勝手に動いて砲撃を始めてしまうほど。彼を憎んでいます」


不知火「…わたしは司令が!!…大好き『だった』はずなのに…!!!」

明石(ッ!?この子、スイッチの影響を受けておきながら…!!)

不知火「お願いします、明石さん…。私の、私達の気持ちを、返してください…!!!」

13 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:43:14ID: fdOXkjWP0


明石「…無理です。もう無理なんですよ。どこで手に入れたか分かりませんが、そのあなたが持つスイッチは欠陥品だったんです」


明石「…最初は出来心だったんです。ちょっとした好奇心でした。まさかあれほど提督が好かれていたとか。まさか提督を嫌いになった皆さんがあそこまでするとは、全部、思いもしなかったんです」


明石「もちろん、直そうとしました。元に戻そうとしました。…でも、何をしてもうまくいかなかったんです」

不知火「不知火も手伝います…、協力します」

明石「いえ、結構です。だって」

明石「この状況だったら、彼は私を見てくれる」

不知火「」ゾクッ

明石「あの人は私を頼りにしてくれる。あの人は私を心の支えにしてくれる。あの人は私に依存してくれる」

明石「あの人は私だけの物になる…!!」

不知火「ッ!?」

明石「この状況を元に戻すつもりはありません。…どうやってそのスイッチの存在まで辿り着いたか知りませんが、知られた以上、口は塞がなきゃいけませんね…」

不知火「不知火とやろうっていうの?…工作船風情が…!!」ガチャッ

明石「確かに、この鎮守府No.2の練度の駆逐艦相手では、私に勝機は薄いでしょう。…でも、ここは、この場所は私の工房ですよ??」

明石「この場所なら、私は戦艦にだって負けはしない…!!」

明石「さぁ、不知火さん。壊れないでくださいね?…データを取りたい試作品がこんなにあるんですから!!!」
ガチャガチャガチャガチャ!!!!

不知火「…沈め!!!」

明石「解体してあげます…!!!」

16 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:48:37ID: fdOXkjWP0



提督「…ふぅ…やれやれ…」

妙高「………」

足利「………」

羽黒「………」

那智「………」

提督「どうした?四人揃って。司令室か私に何か用か?」

那智「…あんな物騒な扉を付けておきながら、ホイホイ敵を中に招き入れるとは、ほとほと不用心なやつだな」

提督「君達は敵じゃない、仲間だろう?中に招き入れて当然だ」

那智「そうか?私は貴様のことを深海棲艦以上の敵だと思っているが」

提督「深海棲艦より私の評価は下か…。落ちるとこまで落ちたな…」

提督「それでどうした?。私を殺しにでも来たのか?」

那智「いや、貴様なんぞ殺す価値もない。今日は言葉を言いに来たのだ」

妙高「今日から私達四人は、提督の命令では一切出撃しません」

提督「…それは困ったな。では他の艦娘の稼いだ資材で、この場所で何もせず、ただ甘い蜜を吸い続けるというのだな?」

那智「出撃は私たちが自分で判断して行う。貴様の指図は一切受けない。これは決定事項だ」

提督「認めないといったら?」

那智「ここで貴様の首から上を吹き飛ばすだけだ」

提督「…わかった…。ではこれからは君達は私の命令で動かなくていい。自分たちで判断して動いてくれ…」

那智「ふん、では失礼するぞ」

羽黒「…早くここから出ましょう。…空気が汚いです…」

17 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:50:59ID: fdOXkjWP0


提督「やれやれ、今度は君達か」

暁「…」

電「…」

響「…」

雷「…」

吹雪「…」

睦月「…」

提督「てっきり、遠征に行ってくれたものだと思っていたが、まだ行ってなかったのか?」

雷「私たちは、もうあなたの命令では動かないわ」

提督「そうか…君達もか」

提督「吹雪…初期艦のお前もか?」

吹雪「…当たり前です」

暁「さぁ、伝えることは伝えたし、早く行きましょう。もうこんな所に用はないわ」

提督「待て、だが、君達が活動しないと、この鎮守府は資材がつき、君達もまんぞくに動けなくなるぞ」

雷「私たちが、自分で判断して、行動するわ」

暁「もう一人前のレディーなんだから。それぐらい自分で判断できるわよ」

響「なにより、司令官に顔を合わせなくて済むしね」

電「それでは失礼するのです」

吹雪「…チッ」

18 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:54:30ID: fdOXkjWP0


提督「…ッが!?」

天龍「」ガンガンガンガンッ

龍田「天龍ちゃん、そのぐらいにしときなさい~。こんな汚い男の血で、あなたの靴を汚すわけにはいかないわ」

天龍「何くの字になって横たわってんだオラ!!」バキッ

提督「ッグハ!?」

天龍「いくぞ龍田」

那珂「はーい、そういうわけで、私たち軽巡全艦、あなたの言うことはもう聞かないからヨロシクー☆」

球磨「なんか文句ありそうな目してるクマね」

球磨「ここら辺、踏み潰したら、その目はしなくなるクマか?」グチャッ

提督「ッーーーーーーーーー!!?」

多摩「」ペッ

提督「」ビチャッ

川内「じゃあね、提督」

20 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 20:58:50ID: fdOXkjWP0


龍驤「なんやねん、私らがやる前からもうボロボロやん、きみ」

提督「今度は…龍驤か…?」

龍驤「?…!。目見えてないん?はは!!ええざまやで!!」

隼鷹「ふふふふww」

鳳翔「その服、洗濯しませんからね!…自分でなんとかしてくださいよ!」

龍驤「まぁまぁ。ここで危害をさらに加えるほど、この龍驤様は鬼ちゃう。…隼鷹、高速修復材を提督に使ったれ!」

提督「ッ!?やめろ龍驤!!…高速修復材は人体には悪影響で…それこそ塩酸かけられるのと変わらな…」

龍驤「そんなん知らんわ、やれ」

ザパァッ!

提督「ガッ!?あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」

龍驤「ほな、軽空母全艦、アンタの言うことはもうきかんから。聞こえてたら覚えといてなー」

21 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:01:24ID: fdOXkjWP0


武蔵「これは…こっぴどくやられたな」

長門「血と涙と汗とでぐちゃぐちゃじゃないか」

大和「見るに堪えないですね」

提督「…そう思うなら手当てしてくれると嬉しいんだがな…ゲホッ」

陸奥「いやよ、汚らわしい」

武蔵「やれやれ、こんなみすぼらしい男に追い打ちをかけるのも馬鹿らしい。今日はもう引くか」

大和「ですが、何もせずに帰るのも…」

長門「高速修復材でもぶっかけるか?」

陸奥「もうやられてるみたいよ、そのネタ」

武蔵「なら、こうすればいい」グシャッ!!

提督「ガァッ!?」

大和「踏みつけるだけですか?」

武蔵「こいつの左手先をよく見ろ。すでに誰かに踏みつけられすぎて、指先の原型がないだろ?…これはもう治る見込みがない」

武蔵「ならせめて、左手を肩から切断して、未練を絶ってやろうという話だ」

武蔵「なに、我々戦艦四人が連続で踏み続ければ、すぐに引きちぎることができるさ」

大和「なるほど!」

長門「ビックセブンの力!!見せてやろう!!」

金剛「何を面白そうなこと隠れてやろうとしてるのデース!!!私達金剛型を忘れてもらっては困るね!!!」

陸奥「面白そうね!」

グシャグシャグシャグシャグシャグシャ!!!

28 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:05:22ID: fdOXkjWP0


提督「……………?」

目がさめる。

途端、様々な光景がフラッシュバックする。

提督「ひっ!!?うわあああああ!!?」

左手は肩になかった。
目の先の床に落ちてた。

あの後も様々な訪問があった。
潜水艦がきた。重巡がきた。一航戦がきた。

提督「ああああああああ!!?」

体を蝕む激痛とノイズに喉が割れる。

大井「提督!!落ち着いてください!!」

提督「ひっ!!?艦娘!!??あああ!!?」

大井「私は大丈夫です!!私は提督に危害を加えません!!!!」

提督「あ…あ…」

大井「動かないでください…。今手当てしてますから…」

仰向けで寝転ぶ私の横にかがむ大井は、両の手が私の血でドロドロに汚れていくのも気にせず、テキパキと手当てを進める。

周りをよく見ればあわただしく輸血パックを運ぶ妖精さんたちや、包帯をまく妖精さんが私の周りを動き回っていた。

30 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:07:48ID: fdOXkjWP0


提督「…大井…?」

大井「…ひどいです…。…どうして…」

大井の目からは涙が溢れていた。

それを見て、沸騰していた頭が、落ち着いていく。

提督「ッ大井は…平気なのか?」

大井「はい、私は、平気です」

彼女は私の右手を握り、指の一本一本に包帯を巻いていく。

大井「北上さんも、みんなも、どうしちゃったんですか…!!。…提督がなにをしたっていうんですか…!!。…どうして!!こんな!!酷いことを!!」

私の手を握る彼女の手は震えていた。

大井「…すみません、提督。…私は、彼女たちを。…止められませんでした…」

提督「………」

身体を起こす。慌てて制止しようとする大井や妖精さんを無言でなだめて、上半身を起こす。

提督「ありがとう、大井。助かった。…少し錯乱してしまったようだ……安心してくれ、目は覚めたよ」

大井「提督は助かっていません!!…私は…なにも…!!」

提督「そんなことはない、私は今ほど誰かに救われたと思ったことはないよ…。妖精さん達もありがとう」

妖精さん「」(._.)うん

まだ、私のことを慕ってくれてる艦娘がいた。
その事実がどれだけ嬉しいことか…。

33 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:11:14ID: fdOXkjWP0

提督「…さて。…聞かせてくれないか、大井。いったい私の知らないところで、艦娘達になにがあったんだ?」

大井「…わからないんです。半年くらい前に、突然、みんな一斉に提督のことが嫌いになって…。北上さんも。みんなも。口を開けば提督の悪口ばっかり」

大井「わけがわからなかった。なにが起こったのか。…でも時間が解決してくれると思ったんです。怖かった。私だけが、狂わずに、いることが。それがバレることが。北上さんから嫌われることが」

大井「だから、狂ったふりをしてました…」

大井「周りに合わせて、みんなに合わせて、動いてきました。…でも!…これは…!いくらなんでも酷すぎます…!!」

提督「…………ふむ」

半年前、突然か。

34 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:12:29ID: fdOXkjWP0


提督(深海棲艦の精神攻撃?それともイマジナリーコントロールか…。なんにしても、彼女達は本心からわたしを嫌ってるわけではなく、なにかに誘導されてる可能性が高い)

提督(明石と大井は、偶然、それにかからなかった。あるいは対象にならなかったというところか。…なんにせよ)

提督「よかった。…これは彼女達の心からの行動ではないんだな…」

大井「みんな…きっと操られているんです!…そうとしか考えられません…!!」

提督「…ありがとう大井。ずいぶん良くなったよ。…さぁ、早くここから出るんだ。あまり長居すると、今度は君に危害が及びかねない」

大井「構いません!!…それぐらいの覚悟は持ってます!!」

提督「では、提督命令だ。大井、自室に帰りなさい。君まで傷つく必要はない」

大井「…提…督」

提督「わたしは大丈夫だ。…幸いにも、これだけの妖精さんが看病してくれるみたいだからね。…心配はいらないよ」

大井「…わたしは…」

提督「さぁ、早く行くんだ」

大井「…わかりました。…妖精さん、提督をよろしくお願いします」

妖精さん「」(`_´)ゞラジャ

静かに出て行く大井の背中を見送り、妖精さんがゆっくり分厚い扉を閉める。

提督(ぐっ!?いてぇ…!!?)

無くなった、左肩を抑える。
左手の感覚が全くないというのは、想像以上に気持ち悪い。吐き気がしそうだ。

提督(だが、ここで引くわけにはいかない。…この鎮守府で今なにが起こってるか…。徹底的に調べねば…)

痛みに耐えながら、わたしは思考の海に沈んでいく…

35 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:15:05ID: fdOXkjWP0





明石「…逃げられましたか…」

ボロボロの工房、無数に錯乱した機材。床や壁や天井に開く無数の弾痕。
その全てが戦闘の激しさを物語っていた。

明石「…駆逐艦ごときが…いったいどういう鍛え方をしたら、あそこまで強くなれるんですかね…」

明石(まぁ私を倒したからと言って、みんなが元に戻るわけじゃないですけど…)

壁に手をつき、荒い呼吸を整える。

明石(…私も…もう彼女を追う体力は残っていませんが、それは彼女も同じでしょう。…しばらくは満足に活動することは出来ないはず)

明石「そうだ、提督。…今日はまだ提督がきてません。…こんなに散らかってたら勘ぐられてしまいますね、提督が来る前に早く直さないと…」

手を二回うち、仲間を呼ぶ。

夕張「…」

明石「全部片付けて、きれいにして。今すぐに」

夕張「はい」

光の灯っていない眼をしながら頷く己の界隈を尻目に、視線を明後日の方向に向ける。

明石「あぁ…。提督、愛しています、心から」

夜は、更けていく。

37 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:18:04ID: fdOXkjWP0

ー 翌日 ー

提督「フゴフゴ…ふが」

壁を背にし膝を抱えるように座る私。

その膝の上に立つ二人の妖精は、どこから持ってきたのか、大きな菓子パンを必死に私の口に詰めてきた。

行為はありがたいのだが、包帯で鼻が塞がれており、口でしか息を出来ないときに、口に物を詰めるのは殺人行為だと気づいて欲しい。

だが、善意は無下にできないので、必死に咀嚼し、飲み込む。

提督「ング!…ゴクン」

最後まで飲み込むように菓子パンを食べきる。
やりきった表情の二人の妖精には、から笑いと一緒にお礼をいった。

部屋は一晩のうちに妖精さんがワチャワチャ片付けてくれ、どこにも血痕などは残っていない、前のままの状態に戻っている。

床に落ちてる千切れた左腕だけは処理に困ったのか、上から布をかけるのみで止まっている。

提督「………」

大井という新たな味方を得て、新たな見方が加わった。
私が彼女たちに嫌われたわけではなく、彼女たちが何かに操られている可能性だ。


提督(考えろ、原因を。思い出せ。あの半年前の日を。その前、私たちはなにをしていたのかを)

幸い、睡眠時間は少ないが、全身を襲う激痛で脳は冴えている。

提督(…嫌われた日の前日の夜までは平気だった。何かがあったとしたら、あの日の深夜だ…)

精神攻撃をしてくる深海棲艦の存在。

話はまったく聞いたことないが、このような化け物がいてもおかしくない。
それが深海棲艦だ。

39 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:22:20ID: fdOXkjWP0


提督(…敵の素性はまったく分からない。…そして他の鎮守府では同様の被害は今の所はない。…私のところだけが狙いうちされた?…なぜ…?)

提督(別段、他の鎮守府に比べて警戒が緩かったわけではない。…かといって、他の鎮守府に比べて大きな戦力を保有してるわけでもない。この鎮守府をピンポイントに狙った理由がわからない。…偶然か、それとも私に対する個人的な恨みか?…)

提督(…わからない…)

事態は全く好転の兆しを見せない。
しかし、大井の存在は、弱り切った私に新たな力を注ぎ込んでくれたのは確実だ。

提督(彼女のためにも、一刻も早く、この状況をなんとかしなければ…!!)

???「…司令」

提督「ッ!!?」

突然、扉に取り付けられたインターホンを通して、ぞっとするほど冷たい声が聞こえた。
分厚い扉越しからも伝わる、凍てつく殺意。

…不知火だ。

40 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:25:38ID: fdOXkjWP0


提督(どうする…!!…開けるか…?…いや、開けるわけには…!!)

不知火「扉は開けないでください。あなたを殺してしまいます」

提督「ッ!!」

不知火「あなたに忠告があってここにきました」

不知火「早く、この場所から出て行ってください」

不知火「なんの思いいれがあるか知りませんが、ここにいれば遅かれ早かれ、あなたの命はなくなります。殺されます。目に見えてます」

不知火「ならせめて、自分を守るために、自分でここから出て行きなさい」

提督「…その忠告は聞けない」

不知火「……どうして、ですか?」

41 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:27:12ID: fdOXkjWP0


提督「そう考えた時も当然あった。でもダメなんだ。…まず、私がここからいなくなれば、代わりにここに着く提督が誰もいない」

提督「悪評が広まっていてね。誰もこの鎮守府に着任したがらないんだ。まずこれが一つ目の理由」

提督「二つ目は、私がもしここからいなくなったら、私に危害を加えた艦娘、全てが、解体されてしまう。…まえに情報を大本営に勝手に報告していた憲兵がいてね。…大本営からは毎日、君たちの解体依頼が来ているよ。…私がそれを止めなければ、君達は殺されてしまうんだ。…そんなこと、絶対に許してはならない」

提督「そして最後に、まだわたしのことを信じてくれてる艦娘がいる。彼女たちのためにも、私がここで君たちを置いて逃げ出すわけにはいかない」

不知火「……わかりました」

不知火「…なら、強制的に、外に放り出してやります!!」

提督「放り出したところで、私はまた帰ってくるぞ。家族を置いて、出ていけるはずがない!」

不知火「ッ?!」

不知火「司令は、まだ、私達のことを、家族だと考えているのですか!!?。こんなにひどいことをされているのに!!?」

提督「当たり前だ!!!」

不知火「…ッ!」

提督「妖精さん、扉を開けてくれ」

妖精さん「」∑(゚Д゚)え!?

提督「…大丈夫だ。…きっと、不知火なら、大丈夫だから…」

不知火「いけません司令!!?。殺されたいんですか!??。この扉を開ければ、私は、貴方を…!!」

提督「開けてくれ」

妖精さんが扉を開ける。

42 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:31:09ID: fdOXkjWP0


その先に立っていたのは、やはり不知火だった。
…己の体をガチガチにロープでぐるぐる巻きにした。

提督「な、妖精さん、言っただろ。不知火なら平気だって。…私を衝動的に傷つけないように、自らの身体をロープで固定するなんてな…」

不知火「司令…が!?」

こちらを見るなり、途端血走った目でこちらを睨みつけてくる不知火。
しかし私はあくまで優しい視線を返す。

提督「今、確信したよ。やはり、私が川内に襲われた時、不知火は私を襲ったのではなく守ってくれていたんだな。…そんな気はしたんだ」

不知火「扉を…!!閉めてください!!…私は司令を…!!!傷つけたくないんです…!!!!」

提督「話を聞きたいんだ、何があったのか、何が起こっているのか」

不知火「司令、早く!!…があああ!?」

不知火の縛り付けた体が暴れ、唇を血が出るほど?みしめる。

提督「くっ!?…不知火!!」

立ち上がろうとして、倒れこむ。
立ち上がって初めて、左手の重さを実感した。
バランスが全く取れない。

不知火「…え…」

途端、不知火の動きが止まった。
呆然というように、私を見下ろす。

不知火「…ししし…司令…官。その…左…腕は…」

提督「あっ…あぁ。少し。事故でね」

不知火「その左手はどうしたんですかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!??」

43 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:35:30ID: fdOXkjWP0


不知火の声とは思えないほどの絶叫とともに、己の体を縛り付けていたロープを引きちぎり、こちらに駆け寄り、かがむ。

不知火「そんな!?そんなそんなそんなそんなそんなそんな!!?司令!!?…司令!??」

提督「不知火落ち着くんだ、私は大丈夫だから…!!!」

不知火「だってそんな司令…!!?…左腕がああああ…」

その手は不知火が大好きだった手だった。
不知火の頭をくしゃくしゃと撫でてくれるその手が。
あたたかいその手が。
不知火は大好きだった。

しかし、今はもうそこに、その手は、ない。

不知火「…誰…ですか?」

底冷えするような声。

不知火「誰?なんですか?」

不知火「シレイ…ノ…ヒダリテヲ…ウバッタノハ…!!!???」

提督「ッ!!?」

不知火の目の奥に、青白い光が灯る。
憎しみで暴れ出す体を押さえつけるように、その体はガクガクと震える。

不知火「コロシテヤル、コロシテヤリマス…!!アトカタモナク!!!ヒネリツブシテヤル!!!」

提督「不知火、落ち着いてくれ…!!?」

不知火「あぁあああああ!!!?」

艦装を展開しながら走り出ていく不知火、慌てて追おうとするも、足はもつれ、再び転ぶ。

駆け寄ってきた妖精さん達に取り押さえられ、扉を閉められてしまった。

44 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:36:42ID: fdOXkjWP0


提督「行かせてくれ!!妖精さん!!」

妖精さん「」今動いたら死んじゃいます!!

大井「何の騒ぎですか!?」

扉の向こうから声が聞こえる。…大井だ!。

提督「すまない大井!!…不知火を取り押さえてくれ!!…正気を失っている!!…。でも、まだ大井と同じで、洗脳され切ってないんだ!!」

大井「ッ不知火ちゃんが…!!…分かりました!!行ってきます!!」

廊下を大井が走りさる音が聞こえる。

提督は己の無力さに、拳で床を叩いた。

45 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:39:13ID: fdOXkjWP0

不知火「…」

妙高「ひっ…!!?」

ズルズルと。
力なく横たわる血まみれの那智の髪を持ち引きずりながら。

不知火は廊下の角に追い詰めた、獲物に近寄る。

廊下には、羽黒と足利も倒れ込んでいた。

一瞬の出来事だった。

突然、声をかけられた四人は、砲撃を至近距離から浴びせられ、弾き飛ばされた。

大井「不知火ちゃん、止まって!!!」

妙高「あ…ああ!!大井さん!!」

不知火「…沈め」

妙高「ひでぶっ!!??」

顔面に14センチ単装砲の直撃を受けた妙高は、顔面から煙を上げながら、廊下に倒れる。

肉の焦げる、嫌な臭いがした。

大井「しら…ぬいちゃん!?どうしたんですか!?何があったっていうんですか!?」

ゾンビのように生気を感じさせない動きでこちらに振り向いた不知火は、口を開く。

不知火「…ずっと考えてました。…どうしたら、司令官をこの状況から救えるかと。…どうしたら守れるかと…」

不知火「考える必要なんてなかったんです、最初からこうすればよかったんです…」

不知火「この鎮守府のすべての艦娘を殺します」

不知火「そうすれば、司令官を傷つける者はいません。司令官は、生き延びることが出来るんです」

不知火「そう…。もっと早く、もっと早くこれに気づいて、みんな殺していれば」

不知火「司令の左腕は無くならずに済んだのに…!!!!!!」

大井「ッ!?」

状況は何となくわかった。
言葉が通じる状態じゃないこともわかった。
まだ、洗脳され切ってないこともわかった。

大井「物理的にショック療法をするしかないみたいですね…!!!それに、北上さんまで殺そうっていうならそうはいかないわ!!!」

不知火「沈め!!!」

大井「少し落ち着きましょうか!!!」

46 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:42:11ID: fdOXkjWP0

……………………………………………………………………

不知火「…すみ…ません…」

大井「………」

不知火の一人部屋の自室。

卓袱台を向かい合わせに座り、視線を落とす。

あの後、騒ぎを聞いて駆けつけてきた大和さんの一撃で不知火は昏倒。
倒れこむ妙高型の四人は全員入渠に運ばれ、現在、治療が行われている。

提督に変わり、現在、この鎮守府を取り仕切っている武蔵さんには、今回の事件は不知火の艦装が暴走したことによる偶発的な事故だと伝えた。

私は、ヤマトさんの一撃で気を失った不知火を彼女の自室まで運び、現在に至る。

不知火「…ッ……ッ」

静かな自室では時計の秒針の音と、不知火のすすり泣く嗚咽だけが響く。

私はしばらくそのままじっと、時間が彼女を落ち着かせるのをまった。

不知火「…すみません…。司令官の左腕がないのを見て…。気が…。動転してしまって…」

やがて不知火はポツリポツリと語り始めた。
司令官のこと。
スイッチのこと。
そして。

明石さんのこと。

47 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:44:03ID: fdOXkjWP0


大井「つまり…明石さんが…」

不知火「…はい」

大井「そしてなるほどね。好感度を逆転させるスイッチですか…。私が平気なのは当たり前ですね。提督のことは尊敬はしてますが、好きでも嫌いでもありませんでしたから…」

大井(…ということは、あとの皆さんは、みんな提督のことが大好きだったと。…ついでに北上さんもノンケだったと…)ずーん

不知火「…明石さんを倒して、説得して、治るスイッチを作ってもらう以外、この状況をなんとかするしか方法はないんです…」

大井「そこが困ったところですね。倒しても、スイッチを作ってもらえなきゃ意味がないですし…。私達にはそんなデタラメなスイッチを作る技術はないですし…」

不知火「…明石さん以外、あんな物は誰も作れません…」

大井「うーん…」

八方塞がり。

大井「…ん?待ってください。明石さんなら、作れるんですよね。その変なスイッチ」

不知火「?…はい、明石さんなら。でも、彼女が素直に言うことを聞いてくれるとは…」

大井「なら、やっぱり明石に頼めばいいんですよ!」

不知火「…言ってる意味がよく…?」

大井「この鎮守府以外の、他の鎮守府の明石さんに頼んで見ればいいんです!!」

不知火「ッ!!!」

大井「幸い、私には他の鎮守府の明石さんが知り合いがいます!!…彼女に頼めば、どうにかなるかもしれません!!」

不知火「まったく、思いつきもしませんでした…!!!」

大井「そうと決まれば、早速電話します!!。よしっ、希望が見えてきました!!」

48 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:46:16ID: fdOXkjWP0

………………………………………………………………………


提督「…どういうことだ武蔵??」

武蔵「聞こえなかったか?。私に貴様の所有する提督権限のすべてを譲渡しろといったのだ」

提督「それは、お前がこの鎮守府の提督になるということか?」

武蔵「そういうことだ。だが、艦娘は提督には公式的になれない。だから、貴様があくまで提督だが、その権限はすべて私に一任してもらうようにする」

提督「断る。残念だが、お前に提督の任務は向いていない。お前は1人の轟沈者も出さずにこの先の海域を攻略する方法がその頭にあるというのか」

武蔵「これは戦争だ。1人2人は死んで当たり前。今までがおかしかったのだよ。安全策ばかりとってちんたらちんたら…。私が提督になった暁には、今までの三倍の勢いで海域を攻略していく自信がある」

提督「三倍以上の犠牲者出しながらか?そんなことをすれば、せっかく取り戻した海域を守護し続ける力もなくなるぞ!。やがて取り返されるのが関の山だ!」

武蔵「しかし、誰も貴様の命令を聞かんではないか?」

提督「…ッ」

武蔵「命令を聞いてもらえず、どうするというのだ。いいか、これはお前が決めることじゃない。私たちが決めることだ。これ以上口を挟もう物なら、その右腕もなくなるぞ」

提督「お前は取り返しのつかないことをするぞ…!!。家族を沈める!!…このままでは、かならず!!」

武蔵「黙れよ、飾り物の分際で。己にはもう力がないことにいい加減気づけ!!」

提督「…クッ」

武蔵「では提督、かわいそうなお前に新たな役職を与えよう。我々、艦娘のストレスの吐き口だ」

提督「…は?」

武蔵「くくく…時期にわかるさ、では失礼するぞ。元提督??」

提督「まて…。まて!?武蔵!!!」

50 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:50:51ID: fdOXkjWP0


海図を広げる

大井「ここから呉鎮守府まで、海上ルートで普通に行けば1日もかからないわ。でも、条件を達成しようと思ったら…5日間はかかる。」

呉鎮守府の明石さんに連絡はついた。
話もついた。

向こうが要求してきたのは、スイッチを開発するための資材の提供だ。
その数、
燃料1000弾薬1000ボーキ1000鋼材1000

本来ならばこの鎮守府から直接輸送すれば済む話だが、残念ながら、この鎮守府の資材の管理を行っているのはあの明石だ。

明石の目を盗んでこれだけ持ち出すことは当然不可能だし、輸送しようものなら、どうしても他の艦娘や明石の目に止まってしまう。

当然、資材を送る理由なんて知られるわけにはいかない。

よって、私と不知火の2人で海上ルートで資材を得ながら、呉鎮守府を目指す。

52 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:52:19ID: fdOXkjWP0


大井「ドロップ艦を最大限に活用しましょう。見つけ次第、同行をお願いするんです。呉に着くまでに6隻仲間にすれば、この量の資材だってなんとか運べます」

不知火「…うまくいくでしょうか?」

大井「やるしかないです。…問題は行きだけ。帰りに運ぶのはスイッチだけですから、帰りは最短ルートで帰ってこれます」

つまり、どんなに早くことを進めてもほぼ一週間。
この状況が続くことになる。
しかもその間提督には、1人で耐えてもらわなければならない。

不知火「私たちの燃料や弾薬は、採掘したもので補うと」

大井「ええ、だからそっちの心配はしなくていいですね。心配するべきなのは、むしろ怪我です。当然、入渠なんかできないから、5日間、ほぼ無傷で、この海上ルートを駆け抜けなくちゃいけない…」

不知火「…やります、これしか方法がないのですから。だったら、やってみせます」

大井「一週間も北上さんと離れ離れになるのは辛いけど…。これしかないものね。やるしかないわ」

顔を突き合わせ、海図に線を引き、念密な計画を練り上げていく。

大井「出発は明日の夜にしましょう。今日は不知火がダメージを負いすぎている…。今晩と明日1日使って、傷を回復してください。そしたら夜にひっそりとここを出ます」

不知火「わかりました」

大井「ドロップ艦を入手しなきゃいけない関係上、安全な遠征ルートだけを通っていくのも無理。装備もきちんと考えないとね…」

次々に色々と書き込まれていく海図。
この晩、不知火の部屋のあかりはいつまでも付いていた。

54 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 21:55:26ID: fdOXkjWP0


足利×→足柄○

ッヒエエエエエエエエエエエエエエ!!?

許してください!!
なんでもします!!

あと妙高四姉妹は大好きです!!

59 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:01:58ID: fdOXkjWP0


提督「…がはっ…なるほどね、武蔵の言っていたストレスのはけ口とはこういう意味か…」

時雨「えい」

夕立「ぽい!」

提督「がっ!?」

司令室の天井から伸びる鎖はわたしの右腕を固定し釣り上げ、私を立たせ続ける。
しかも両足はバタつくことができないように重りが取り付けられていた。

わたしの目の前には、弓を構える駆逐艦2人。
やの先端は丸みを帯びており、刺さる心配はないがその分、打撃力が強化されている。

当たった場所には紫の痣ができ、額は割れ流血していた。左目の視界が赤く染まる。

夕立「なかなか思い通りのところに当たらないっぽい」

時雨「空母の皆さんはすごいね、えい!」

時雨から放たれた矢が高速で飛来し、腹部にめり込む。内臓がひしゃげるような痛みが身体に走る。
しかし、倒れこむこともできない。

時雨「うーん、今のは顔を狙ったんだけどな」

瑞鶴「まぁ貸しなさいって」

横から現れた瑞鶴が時雨の弓を取り上げ構える。

冗談だろ、駆逐でもこんなに衝撃があるのに、正規空母の一撃なんか食らったら…

瑞鶴「どこを狙って欲しい?」

夕立「股間っぽい!」

時雨「こら夕立、はしたないよ」

瑞鶴「ふふふ、オッケー!」

弓がビリビリとしなりこちらに狙いを定める。
たまったもんじゃない。
狙いを外そうと暴れるが、重りのつけられた両足に、拘束された右腕では満足に動くことすらできない。

やがて、瑞鶴の手が矢を放ち、

轟音を撒き散らしながら、股間に直撃した。

ー意識がとぶー

60 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:04:32ID: fdOXkjWP0


夕立「すごいっぽい!!大命中っぽい!!」

時雨「あの男は気絶したね、見てよ、ビックンビックン痙攣してる」

瑞鶴「あははは傑作ね!!!」

翔鶴「次は私の番ね」

赤城「その次はわたしが」

加賀「ここは譲れません」

提督(だめだ…しぬ…)

艦娘のストレス発散は続く。

62 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:07:53ID: fdOXkjWP0


川内「はい!というわけで、この薄汚い司令官をパンチングマシーンの機械に組み込んでみました!!」

吹雪「どんどんパフパフー!!!」

那珂「おおー!!」

天龍「じゃあ、俺から行かせてもらうぜ!!…ふふふ、俺の凄さにお前ら怖がるなよ…」

天龍「おら!!」
190kg!!!

響「や!!」
80kg!

雷「てんりゅーすごーい!」

64 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:09:05ID: fdOXkjWP0


龍田「えい」
210kg!!!!

天龍「」( ゚д゚)

北上「いっくよー」
210kg!!!!

天龍「」( ゚д゚)

北上「次は…」

北上(改二)「本気でいっくよー!!」
350キロ!!!!!

天龍「」( ゚д゚)

武蔵「むん!!!」
500kg!!!!!!!

天龍「」( ;´Д`)

大和「え…えい!」
ー 測定不能 ー

全員「」( ゚д゚)

夕立「はははは!!提督さん、ひしゃげてるっぽい!!!」

北上「そういえば誰か大井っち見かけてない、最近見かけないんだよねー」

三日月「見かけてないですね…」

67 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:11:14ID: fdOXkjWP0


提督「…やっと…誰もいなくなったか…」

提督「大井、不知火、どこだ?…いないか」

提督「…これからは…これが毎日…か…ふふ。ダメだな…さすがに死んでしまいそうだ…」

川内「なーにブツブツ言ってるの?」

提督「せ…川内!?」

川内「夜はこれからじゃん、夜戦しよ!」

提督「……ッ」

川内「そんな泣きそうな顔しないでよ、ちょっと明日の草野球のために、肩を鳴らしておきたいだけだからさ」

川内「よっと!!」ボール投げ!

提督「」顔面!!

川内「うーん、我ながら相変わらずのコントロールの良さ!!でも球速は落ちてるなぁ…よーし、もう一回!!」

提督「川内…」

川内「…?なによ」

提督「私は、お前のことが好きだったんだ…。元気なお前に何度勇気付けられ助けられてきたことか…。今になって思うよ。…私は本当に、君のことが、好きだった」

川内「きっも、それなんの告白?」

提督「はは…ははは…」

龍驤「おっ、なんやおもろそうなことしてるやん!!。私も混ぜてーな!!」

大鳳「私も」

愛宕「はいはーい!私もやりまーす!!」

提督「みんな、大好きだったんだ…」

提督「なのに…」

ガンッ!!!

68 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:13:27ID: fdOXkjWP0


毎日が繰り返し。

打たれ。
撃たれ。
殴られ。
蹴られ。
踏まれ。
斬られ。
刺され。
噛まれ。
なじられ。

大好きだった仲間から。
大好きだった家族から。
大好きだった人から。

朝から晩まで。

深夜でも。


大井も不知火もあれから現れない。

たまに来る明石が献身的に何かしてくるが、それすらももうなにも感じない。

涙は枯れ。
体はボロボロ。

心は完全に。

壊れた。

70 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:15:25ID: fdOXkjWP0


提督「ッ…ッ…」

鹿島「うーん、リアクションが薄いですねー。もうムチじゃ泣きませんか」

曙「クソ提督、マジでクソまみれじゃない、うっわ汚な!。こっちみんな!!糞まみれ提督!!」

満潮「早く死ねよこのクズ!!」

北上「ねぇ提督聞いてる??もっと最初みたいにさぁ、元に戻ってくれだとか、正気に戻ってくれだとか、ギャンギャン騒いでくれないと、見てるこっちはつまらないんだけど?」

提督「北…上…」

北上「おっ、名前呼んだ」

叢雲「うわあ…きもぉ…」

吹雪「ダーツなんかあったんですけど!!これ投げて遊びませんか??」

睦月「おもしろそう!」

摩耶「お??ダーツか!!それならこの摩耶様に任せろ!!!」

吹雪「的は当然…」

曙「クソ提督ね!」

ドスッ

73 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:17:51ID: fdOXkjWP0


大井「まだスイッチはできないんですか?明石さん」

呉明石「いやー…もうちょっと待って欲しいなぁ。これなかなか難しいよ…こんなスイッチ作るの。そっちの私はよく作ったなぁ。持ってきてもらった資材でも足りるかどうか…」

大井「そんな!?」

呉明石「いやでも約束は守らなければ工作船の名が廃る!!。まってて、必ず作ってみせるから!!」

大井「よろしくお願いします…」

呉明石「うん!!任せて!!」

不知火「…進行具合はどう…?」ヨロ

大井「ッ!?不知火!!寝てなきゃダメじゃない!!あなたが一番ダメージを負ったんだから!!」

不知火「もう私たちが出発して10日も経ってる…!!早くしないと…提督が…」

大井「……」

呉明石「あっそうそう、あなた達が連れてきたドロップ艦のみんなは、みんなこっちの鎮守府で面倒みるって。提督に気に入られたみたいよ」

大井「よ…よかったです。うちは今、この通りの状況なので…」

呉明石「うん」

呉夕張「…なんですかこのスイッチの設計図!?これ、難しすぎますよ!?艦娘の頭を高周波でジャミングして、特定感情だけを逆転させるなんて!?開発なんて一年かかっても無理ですよ!?」

大井&不知火「えっ!!???」

呉明石「そりゃ夕張、あんたにはね。でも、この天才明石様にかかれば、一週間でなんとかして見せるわ!!」

不知火「一週間…」

大井「そんな…」

呉明石「あ…あれー?すごーい、明石さーんみたいなノリを期待してたんだけどなぁ…」

75 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:19:20ID: fdOXkjWP0


とうとう恐れていたことが起きた。

提督「…雪風が…沈んだ??」

武蔵「ああ。しかし、海域は解放できた」

提督「お前…自分がなにをしたのか…わかってるのか!!?」

武蔵「無論、分かっているさ!。我が国の勝利のために一歩前進させた!!!」

提督「違う!!無謀な策のせいで、仲間を1人殺したんだ!!!」

武蔵「確かに私も悲しいぞ。だが、致し方ない犠牲だった。だいたい、私は幸運艦だから沈みませんとかいってた奴も奴だ。大破進撃させたらどうだ?あっという間に沈みおった」

提督「む…武蔵いいいい!!!」

武蔵「…ほう、まだそんな目が出来たか。てっきりもう廃人同然だと思っていたがな」

提督「地獄に落ちろ!!!あの世で雪風に詫びてこい!!!!」

武蔵「貴様が、家族と豪語する私にもそんなことを言うようになるとはなぁ…。人間とは変わるものだくくく…」

77 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:21:58ID: fdOXkjWP0


その後は相も変わらず、いたぶられる日々。
生傷はどんどん増し、最近、右足も動かなくなった。
そしてたぶん、左目も見えていない。

提督「」ブツブツブツブツ…

あれだけ献身的に私を治療してくれた妖精さんも、最近はその姿を見かけない。
大井も。
不知火も。
明石も。

79 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:23:35ID: fdOXkjWP0


呉明石「で…できたー!!」

大井「ッ!!??」

不知火「本当ですか!!!?」

呉明石「ふふふふふ!!!なんとかできたよ!!!あなた達が到着してから5日間!!なんと完成まで一週間かかりませんでした!!!!」

大井「ありがとうございます!!明石さん!!!」

不知火「早く!!早くスイッチを持って出発しましょう!!!これで何もかも元どおりです!!!」

呉明石「大丈夫だよ、効果的には、ここでスイッチを押してもちゃんと向こうに効果があるから。わざわざ向こうまで運んで押す必要はないよ」

大井「本当ですか!!??」

呉明石「ただし、一つ問題があって…」

不知火「!」ポチッ!!!!

呉明石「あっ」

不知火「…え?」

呉明石「押しちゃった?」

不知火「押しちゃいました」

呉明石「えーと…気分はどう??」

不知火「…晴れ晴れしてます。提督が気持ち悪くありません!!!大好きな気持ちを取り戻せました!!!」

大井「やったわね!!!これで元どおりだわ!!!」

呉明石「いや…そうもいかないかも…」

大井「え…?」

呉明石「感情は元に戻っても、感情が逆転してる時の記憶は消えないの…つまり…」

83 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月18日 (日) 22:24:53ID: fdOXkjWP0


ちょっと休憩します…

再開はニ時間後くらいのつもり
お風呂はいってきます、ビバノンノン

134 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:17:44ID: KuS6oNOe0


コメントたくさん嬉しいな!!?
そろそろ再開しますねわっしょい!!

ー 今日の格言 ー
お湯に浸かりながら居眠りすると死ぬ(真顔)

136 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:19:50ID: KuS6oNOe0


その瞬間。

辺境鎮守府中の艦娘は動きを止めた。

あるものは呆然とその場で棒立ちになり。

あるものはその場で座り込み。

あるものは手に持っていたもの全てを床に撒き散らし、

あるものは頭を抑えてうずくまり。

あるものは声をためた後。
絶叫した。

138 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:21:32ID: KuS6oNOe0


提督「……」

提督はフラフラと廊下を進んでいた。
痩せこけた体。
くぼんだ瞳。
ボサボサの髪。
左腕はなく。
おかしな方向を向いた右足を引きずりながら。
右手に松葉杖をついている。
純白の海軍の制服は見る影もなく。
ドロドロに汚れていた。
治療されていない生傷が、破れた制服のいたるところから覗く。

当然、そんな状態で歩けるはずがなく。

がしゃんと前のめりに彼は転んだ。

右手に持っていた松葉杖が投げ出され、廊下を滑り、誰かの脚にぶつかって止まる。

…川内だ。

139 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:23:58ID: KuS6oNOe0


提督「ッひっ…!ヒィッ…!!?」

川内「て…提督…ッわ…私…」

声を震わして目に涙をため、提督に近づく川内。

提督「ッこっちにくるなぁ!!?…ッこないでくれぇええ!!?」

川内「ッ!!?ッあ…う…!?」

それでも川内は足元の松葉杖を拾い上げ、ゆっくり提督に近づく。そして、空いてる手を伸ばす。

川内「提督…た…立ち上がれないよね…私の手を、掴んで…」

提督「ひ、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」

叫び声を上げながら地を這ってでも、自分から距離をとろうとする提督。

川内「違うの…!?違うの提督!!??あれは私じゃない!!?私の本心じゃない!!??どうしてあんなことになったか、私も分からないの!!??」

川内「ねぇ、提督!!私のことを好きって言ってくれたよね?!!大好きだって!!?私もそうだよ!!?大好き!!?大好きなの!!!あなたのことが、提督のことが!!?」

140 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:25:12ID: KuS6oNOe0


提督「…はは…俺が、お前のことを好きだって??」

川内「ッー」

提督は川内を見つめた。
川内は見たことなかった。

いつも優しい、常に笑顔を浮かべていた提督が。

まるで汚い汚物を見るような目で、見たことないほど憎しみのこもった表情で、他の誰でもない、自分のことを見つめてくる。

提督「俺は、お前のことが」

提督「この世で一番、大っ嫌いだ」

川内「…っあ…」

手から自然と滑り落ちた松葉杖を引ったくるように提督は掴み、逃げるようにその場から去っていく。

提督の、セリフが、甦る。

ー 私は、お前のことが好きだったんだ…。元気なお前に何度勇気付けられ助けられてきたことか…。今になって思うよ。…私は本当に、君のことが、好きだった ー

川内「ッあ…ッが…!?」

明石「あらあら振られちゃいましたね~」

そんな川内の後ろから、明石が、現れた。

川内「あか…しさん…」

明石「気づいてました?…あの提督は最後の最後まで、あなたのことを信じていたんですよ。他の誰よりもどの艦娘よりも。あなたなら…と信じて。信じて声をかけ続け、告白した」

明石「でも、あなたはその後なにをしましたか??」

明石「まだ残ってるんじゃないですかぁ~?その足に感触が」

川内「…いや…」

明石「提督の足を踏みつぶしたその感触が」

川内「あああああああいや…、いやああああああああああああああああああああああああああ!!???」

廊下を駆けていく川内。
その背中を明石は愉快そうに見送った。

142 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:28:07ID: KuS6oNOe0


夕立「…時雨…」

時雨「…うん」

夕立「…夕立、とんでもないことしちゃったっぽい…」

時雨「…うん」

夕立「大好きだった提督さんに、酷いことしちゃったっぽい。とってもとっても大好きだった提督さんに酷いことしちゃったっぽい…!!」

時雨「…うん」

夕立「どうすればいいっぽい??…いったいどうすればいいっぽい…!!?」

時雨「……」

夕立「て…提督さん、きっと夕立のこと嫌いになっちゃったっぽい…!!。大っ嫌いになっちゃったに違いないっぽい…!!」ボロボロ…

時雨「…謝ろう。それしかないよ、夕立。…きっと許してくれないけど、もしかしたら解体するって言われちゃうかもしれないけど。…誠心誠意、謝ることしかできないよ…」

夕立「ぎっと許してぐれないっぽいい…でいとくさん、夕立のことぎらいっぽいい…」

時雨「…謝って、許してくれなかったら、海に沈もう…。それ以上生きていても仕方ないから。罪を償えないから…」

夕立「あああ…ああああああああ」

143 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:30:52ID: KuS6oNOe0


龍驤「あっ…」

廊下の先。
そこに提督がいた。
壁づたいに沿いながら、フラフラとぎこちなく歩いている。
向かう先は方角的に、食堂だろうか…。

龍驤「」

龍驤は無言で後ろから提督に近寄り、ふらつき倒れそうになる提督の肩をとっさに支える。

途端、提督は跳ねるように驚き、その場に盛大に転んだ。

龍驤「わわわっ!!?大丈夫か!!?」

慌てる龍驤に後ずさりする提督。
その歯はガチガチと音を出して震え、その目は悪魔を見るような目つきで龍驤のことを見てくる。

龍驤「ッ…まずは、医務室や。提督。医務室に行かんと…。方向が逆やで…」

龍驤が差しのばす手を提督は振り払う。

龍驤「ッ…」

提督「…何の用だよ…」

聞いたことのない、乱暴な言葉。
聞いたことのない、恐ろしい声音。
無意識に震える体を龍驤は抑え、必死に声を搾り上げる。

龍驤「 謝りたかったんや…君に…。…今までのこと、全部。本当にすまんかった…。うち、どうかしてたんや…」

提督「…」

無言で起き上がる提督に再び手を貸そうとするも、再び振りはらわれる。

龍驤の目から涙がこぼれた。

144 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:32:04ID: KuS6oNOe0


龍驤「ッ頼む!!…許してくれへんか…!!?ほんまにすまんかった…すまなかった…!!?おかしかったんや、何かに操られとったんや!!?じゃないと説明できへんやろ…!!?」

龍驤「じゃないと…!!?うちが…!!?世界で1番君のことが大好きなうちが!!?あんな酷いことをするはずないねん…!!??」

龍驤「お願いや、許してくれ…!!?うちにはあんたしかおらん…ここにしか居場所がないんや…罰ならいくらでも受けるから!!だから!!!」

提督「ひっ!!??」

龍驤が大声で詰め寄ると、提督は悲鳴をあげて龍驤から遠ざかる。

龍驤「ッてい…とく…」

提督「くるな!!?こっちに来ないでくれ!!!2度と私に近づくな!!!!お前のことなんか大っ嫌いだ!!!!」

龍驤「…ッ…あ……が…」

提督は去っていく。
龍驤は力なく、その場に崩れ落ちるようにへたり込んだ。

龍驤「…はは。…あはは…」

両手を見る。
この手で今まで彼に何をしてきたのだろう…。

龍驤「この手やな…。君を怖がらせとるんは…。この手なんやな…」

細い白い手。
しかし。
龍驤の目にはドロドロの血に塗れた、悪魔の手に見える。

龍驤「…この手さえ、なければ、君は許してくれるんかな…?」

龍驤はフラリと立ち上がると、ユラユラと揺れながら。

工房の解体部屋を目指した。

146 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:33:36ID: KuS6oNOe0


北上「…」

足元に散らばる書類の海の上に座り込む。
震える手で両手を見つめた。

なんだ、なにがなんだ、なにが起きた?

私は。

提督に。

なにをした?

北上「あ…あああ…」

震える。
震える。
体が。
震える…!!

北上「大井…、大井っち?…どこ…?あ。あ、やだ。一人にしないで。あ…あああ!??」

なにも見えない。
なにも聞こえない。
辺りは真っ暗で。
真っ暗な世界に私はひとりぼっち。

北上「助けてええええ!!?たずけてよ大井っちい!!??どこにいるのどうしたらいいの分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない!!!???」

頭を床に叩き続ける北上。
額が裂け、血が飛び散るが、全くそんなこと気にしない。

北上「助けて助けて助けて助けて助けて助けて!!???ここから出して!!??暗いのは嫌だ!!?一人は嫌だ!!??ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!??」

149 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:35:28ID: KuS6oNOe0


その時、真っ暗な視界に、光が差し込む。

スポットライトで照らされるように、ボロボロの提督が。
こちらに向かって歩いてくる。

北上「あああ!!??提督提督提督!!??助けて!!??ここから出して!!!許して!!!!許してよおおおおお!!??」

廊下の真ん中で発狂してる北上を、提督はジッと見つめる。

提督「…お前にはなにが見えてるんだ?」

北上「ッなにも見えないの!!?なにも聞こえないの!!??提督さんのことしか今は見えない!!?怖い怖い怖い…!!?行かないで?!私のそばにいてよ!!?またあの真っ暗なところに置いて行かないで!!?」

提督「…ふーん、じゃあさ」

提督「一生そこにいろよ」

北上「…あ」

北上の視界から、提督が消える。
辺りは真っ暗。
なにも見えない闇の中。

北上「あ…あああ…」

私は。
大好きな彼に。

ナニヲシタ?

北上「ッあぁああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!????」

球磨「ッ北上!?…しっかりしろ!!しっかりするクマ!!??」

咆哮のような叫び声に、球磨が駆けつける。
北上の目の焦点は合っておらず、口からは泡が吹き出る。

球磨「おい!!…しっかりするクマ!!おい!!??」

球磨の声は届かない。
その姿も北上の目には写らない。
彼女の心は暗い黒い闇の中に。
幽閉されてしまった。

151 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:38:27ID: KuS6oNOe0


天龍(謝ろう…謝るんだ、なにをビビってるんだ、いけよ!!俺の足!!!)

食堂の中に提督はいた。
一番角の、一番隅の席に座り、なにを食べるまでもなく、ジッと視線を下に落としている。
…その表情を窺い知ることは出来ない。

天龍(怖くなんかねぇだろ!?怖くねぇ!!…謝ることなんか!!全然…!!!)

食堂の扉の横に身を潜める天龍は、一歩を踏み出せない。

天龍(…もし、許してくれなかったら…)

もし、提督に嫌われてしまっていたら。

天龍(嫌だ…嫌だよ…)

怖い。
足がすくむ。
前に進めない。

鳳翔「…申し訳、ありませんでした…!!!」

体がびくりと震えた。
中を覗き込むと、鳳翔が、提督に向かって土下座をしていた。
…その体は小さく震えている。

鳳翔「処罰なら何なりと受けます!!!罪を償えというのなら何でもします!!!解体でも構いません!!!!」

鳳翔「私は…私は…!大好きなあなたを傷つけた…自分が…自分が許せません!!!」

鳳翔「どうか厳罰を…。死ねと言われたら、私はここで死にます!!」

声の正体は鳳翔だ。
そんな鳳翔を見つめる提督は、感情の全くこもってない表情でボソボソと声を漏らす。

提督「………もういいんだ鳳翔。何もしなくていい」

提督「どうでもいいんだよ、君のことなんか。君が生きていようが死んでいようが。心の底からどうでもいい」

鳳翔「ッーーー!?」

提督「そんなに罰が欲しいなら自分でどうにかしてくれ。俺の手を煩わせるな。俺の知らないどこか遠くで勝手にのうのうと暮らしてくれ。…もう2度とわたしの目の前に現れるな…!!」

鳳翔「ッはいぃ!?お世話に、なりました!!!」

跳ね上がるように飛び起き、食堂から駆け出ていく鳳翔。
ボロボロに泣き崩れたその顔を。
俺は見てしまった…。

156 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:41:04ID: KuS6oNOe0


天龍「あ……。あ…」

提督が怒るのは当然だ。
怒って当たり前だ。

…だが、自分たちに比べてほとんど何もしていない、鳳翔相手にもあれほど…怒っている提督は…憎んでいる提督は…

いったい自分にはどれほど怒り憎んでいることだろう…

天龍(怖い…怖い怖い怖い怖い!??)

龍田「天龍ちゃんはもうお部屋に帰りなさ~い。あとは私に任せて」

突然背後から肩に手を置かれると同時に、声をかけられる。

天龍「ッ龍田!!?」

龍田「提督はいるかしら?」

天龍の横を通り過ぎ、龍田は臆せず中に入っていった。

…そんなはずはなかった。
龍田の声は聞いたことないほど、震えていた。

提督「ッ!?今度は龍田か…。ッなんだ!?ッまたわたしを殴りにでも来たのか…!?」

龍田「いいえ、殴られに来たのよ」

提督「……」

龍田「初めに言っておくわ。…許してもらおうなんて思ってない。だって許されるはずがないんですもの…。そうでしょう?」

提督「………」

龍田「私は、私たちはそれほどのことを貴方にしたわ。とても、酷いことを」

龍田「許される…はずがないじゃない…!!!!」

龍田「ねぇ提督、私も天龍ちゃんも、貴方のことが大好きだったのよう?本当よう?嘘じゃないわ、大好きだったの」

龍田「…私をぶん殴ってください。そしたら、私達はもう金輪際、貴方の近くにはいきません、貴方の目の前に現れません…お願いします…」

158 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:43:01ID: KuS6oNOe0


龍田は膝をつき、歯をくいしばるように目を閉じ、その時を待つ。

提督「…今さらなに言ってんだよ…」

龍田「…え?」

提督「俺もな、お前らが大好き『だった』よ!でも今はな!!お前らのことを!!殺したいほど憎んでる!!!」

龍田「ッー」

提督「でもな!!?腕が片方ないんだぞ?足も片方ひしゃげてるんだぞ!?」

提督「これでどうやってこの怒りをぶつければいいって言うんだ!!!!!」

龍田「ッ!!」

提督「腕があったら絞め殺してやりたいよ!!でも出来ないんだ!!腕が、ないから!!!」

提督「早くでていけよ!!お前たちの顔なんか見たくもない!!思い出したくもない!!」

龍田「…ッごめんなさい提督…!!!」

食堂から走り出てきて崩れ倒れそうになった龍田を天龍は支える。

龍田「ッ出て行きましょう…!ッ天龍ちゃん…!!ッ私達、嫌われちゃった…提督に…ッ嫌われちゃったよ…あぁ…ああああああ!!??」

ボロボロと泣く龍田を抱きかかえながら、天龍も声を上げて泣く。

行く当てもなく、フラフラと、二人は廊下を進んでいく。

159 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:44:13ID: KuS6oNOe0


暁「しれいかーん!見てみて!MVP取ったのよ!」

次に食堂に飛び込んできたのは暁だった。
体に幾つかの傷をつけ、艦装を付けたまま、提督の前でMVPの勲章をかざす。

暁「暁だってやればできるんだから!」

提督「……」

暁「ッ!…ッ!…そ、そうよね!鎮守正面海域なんてMVPが取れて当たり前よね!!?見てなさい!!ッ次はもっとすごいMVPを取るから!!!」

提督「……」

暁「ッねぇ、ほめてよ…前みたいに褒めてよ!!?もうわがまま言わないから、ッその手で頭をもう一度撫でてよ…!!!???許してよおおお!!!!????」

提督「……」

泣きながら顔を真っ赤に腫らして飛びつこうとした暁を、提督は右手で払う。

暁「ッあ…ッあ…!!?」

何かが決定的に壊れてしまう。
暁は震える手を伸ばす。

しかし、提督はその手を握ってくれない。

暁「ッわかったわ、そうよね、この程度じゃ、褒めてくれないわよね!!?…ッもっと、もっと凄いMVP取らなきゃ…褒めてもらわなきゃ…!!?」

支離滅裂。
何かが決定的に壊れてしまった音と共に、暁は食堂を飛び出す。

暁「まってて!?司令官!!私が!!もっと凄いMVPを取るから!!!司令官の役に立つから!!!!立ってみせるから!!!もう一度頭を撫でて貰うんだから!!!!あは、あはははははははは!!!!?」

単艦での出撃。
目指すはもっと凄いMVP。

160 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:45:46ID: KuS6oNOe0


加賀「ッ五航戦!?手を離しなさい!!!」

瑞鶴「離すもんですか!?その短刀で何するつもりよ!!!」

加賀「喉を掻っ切って死にます!!!私は、私が1秒でも長く生きながらえることを許せない!!!!」

瑞鶴「あああ!!?翔鶴姉も手伝って!!!」

翔鶴「嫌です!?離してください!!!」

赤城「ダメです!!!そのカッターナイフから手を離して下さい!!?」

翔鶴「いやああああ!!!」

瑞鶴「ちょっ翔鶴姉!?何早まった真似してんのよ!!?落ち着いて!!!!」

赤城「加賀さんも落ち着いて下さい!!!本当に死ぬことが一番の償いですか!!!加賀さんのそれは辛い現実から逃げようとしてるだけです!!!逃げないで!!!向き合ってください!!!」

加賀「じゃあ…私はいったいどうしたらいいのですか赤城さん…。どうすれば、いいのですか?…わからないんです…わからないんですよ…!!?赤城さん…!?」

赤城「私だって…分かりませんよ!!?考えましょう加賀さん、一緒に!!!」

翔鶴「ダメよ…どうしたらいいの瑞鶴…」

瑞鶴「そんなことわからないわよ!!?私だってもう頭の中が、何が何だか!!?わからないんだから!!!…とりあえずその危ないものから手を離しなさい…!!!」

瑞鶴と赤城は加賀と翔鶴から、刃物を強引に取り上げ窓の外の海へ向かって投げすてる。

加賀「ッ!……」

瑞鶴「…落ち着いた…?」

加賀「………」

赤城「…落ち着きましたか…?」

翔鶴「……」

…加賀と翔鶴は静かにその場にへたり込んだ…

161 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:47:01ID: KuS6oNOe0


加賀の視線は何もない床の一点に注がれ、翔鶴の視線は不安と恐怖にグラグラ揺れている…

赤城「…私たちは、きっと何かに操られていんです…。そうでもないと、こんなこと説明できないじゃないですか…」

瑞鶴「…そうだよ、わたしたちは操られていたの…」

赤城「提督は聡明な方です…。きっと、私達が操られていたことも、私たちの本心ではなかったことも理解して頂けるはずです…!!」

瑞鶴「…だから大丈夫…!…きっと、キチンと説明すれば…!!」

翔鶴「…許して頂けると思いますか…?」

底冷えするような声。
瑞鶴はこんな翔鶴の声は聞いたことがなかった。

翔鶴「事情を説明して、謝るだけで、本当に許してもらえると思いますか…?」

翔鶴「…あんなに…!!酷いことをしたのに…!?」

赤城・瑞鶴「ッ」

加賀「…許して頂けません…私達はそれほどのことをしたんです…当然じゃないですか…」

赤城「で…でも…!?」

明石「いやいや、許してもらえないでしょ」

その時、部屋の入り口からひょっこり明石が顔を出した。

162 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:50:31ID: KuS6oNOe0


翔鶴「ッ明石さん…!?」

明石「自分たちが何したのか分かってないのかなぁ?。…凄いよね、少し前まであんなけ慕っていた提督に対して、あんなに酷いことが出来るなんて」

瑞鶴「…ッ」

明石「ちなみに、もう何人かの艦娘は謝りに行ったみたいだけど、全員、この鎮守府から出て行くように言われてるみたいだよ?。さっきもちょうど、鳳翔と龍田と天龍が出て行ったところだわ」

赤城「そ…そんな!?」

明石「当たり前だよね、当たり前よ。…特にあなた達は、爆撃したり、射抜いたり、無茶苦茶したもんね。…許されるはずがないじゃない」

加賀「…許して頂けるなんて…許してもらおうなんて…思っていません…」

加賀「…どんなことをしても、何をしても、許されないのは分かっています…ッ私達が何をあの人にしてしまったのかも…わかっています!?」

加賀「ッいっそあの人に死ねと言われたらどんなけ楽か…!?…許せないんです!!私は、提督を傷つけた、私のことが!!絶対に!!何があっても…!!」

加賀「…あんなに…大好きだったのに…」

崩れ落ちる加賀の肩を赤木が支える。

翔鶴「…私は…出撃します…」

瑞鶴「ッ何を言い出してるの翔鶴姉!?」

翔鶴「この身、朽ち果てるまで深海棲艦を焼き払い、提督の夢を、この海に平和を取り戻すという夢を、少しでも叶えられるように…」

翔鶴はゆらりと立ち上がる。

瑞鶴「無茶よ!?そんな精神状態で戦って帰ってこれるはずがないわ!!?」

翔鶴「元より帰ってくる気はありません」

瑞鶴「ッ!?」

翔鶴「海の底で、また会いましょう」

翔鶴は弓を携え、走り出ていく。
瑞鶴は慌ててそれを追った。

赤木「ッ加賀さん…」

加賀「私も行くわ…最後に…少しでも…この身が提督のお役に立つように…」

その数分後。

空母4隻が誰に何を告げることなく遠い海洋に向かって出撃した。

163 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:51:31ID: KuS6oNOe0


暁「指令かーん!!見てみて!!私!!MVPよ!!」

暁「えへへ、そんなに褒めないでよ、もう!頭も撫でないで!!暁はもう立派なレディーなんだから!!」

電「あ…かつきちゃん…」

誰もいない司令室。
そんな司令室の真ん中で、笑顔の暁はクルクルと一人で楽しそうに回る。

暁「そうよ!私は立派なレディーなのよ!」

彼女の体はボロボロで、すでに大破といっても過言ではないほど追い詰められていた。

電「暁ちゃん!?目を覚ますのです!!暁ちゃんの前には司令官さんはいないのです!!」

暁「あっが…司令官、ど…どうしてそんな顔をするの??どうしてそんな怖い顔するの…??…やめて司令官…怖い…怖いよ…ぶたないで…!!?」

暁「ッごめんなさい司令官!!?許して!!?許してよ!!!?」

暁「いくらでもMVP取るから!!いうことを聞くから!!!意地悪をしないから!!!ごめんなさいごめんなさい!!!許して!!?私活躍するから!!!役に立つから!!!たくさん!!たくさん!!!だから!!!」

暁「私を、見捨てないでえええええええええええ!!??」

絶叫しながら司令室を走り出ていく暁を電が慌てて追いかける。

電「無茶です暁ちゃん!!?これ以上の出撃はやめてください!!?」

暁「あは…あははははは!!!!行くわよ電!!負けないからね!!私が!!絶対に!!MVPを取って司令官に誉めてもらうんだから!!!」

折れた砲塔。
ボロボロの体。
しかし暁は満面の笑顔で出撃していった。

167 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:55:30ID: KuS6oNOe0


扶桑「…山城、包帯を」

山城「はい、扶桑姉様」

食堂。
入り口から1番奥の角の椅子に腰掛ける提督。
その横に二人の戦艦がしゃがみこんでいる。

二人はテキパキと提督の体の傷の手当を進めていた。

提督「ッ扶桑…」

扶桑「何も語らなくて大丈夫です…提督…」

山城「私達を罵りたい気持ちは分かりますが、今しばしお待ちを…。傷の手当だけでも、させてください」

山城の言葉に、提督は首を振る。

この辛い半年間。
不思議とこの二人には何もされてこなかった。
否、無視や軽蔑はされたが、他の艦娘のように二人は危害を加えてくることはなかった。

扶桑「…ッ…こんなに…全身…」

上着を脱がせた提督の体はひどいものであった。
痣がないとこがないほど紫に全身晴れ上がり、血がそのまま固まったどす黒い傷跡が無数に残る。

もはやこの怪我で生きている方が不思議なレベルだ。

扶桑「山城、消毒剤を…。1度全身、消毒剤を脱脂綿に染み込ませたもので拭きあげます…。提督、かなり染みると思いますが、どうかお我慢ください…」

山城「はい、扶桑姉様…」

消毒剤を脱脂綿に湿らし、体を拭く。
脱脂綿はすぐに黒く染まり、使えなくなる。

扶桑「…私、これから不幸という言葉を使うこと、辞めることにするわ…。…私が今まで受けてきた不幸なんて、提督の不幸に比べれば…。半分にも満たないから…」

山城「…提督?」

提督「…扶桑、山城…」

提督は泣いていた。
枯れ果てたと思った両目の涙腺から涙が零れ落ちる。

171 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:57:59ID: KuS6oNOe0


提督「ごめんな…扶桑、山城、何もしてないお前らにも…辛く、当たって…ッごめんな…。お前らはこんなに、優しいのに…」

扶桑「…何を言うのですか。私達は、提督が傷つくのを、助けもせず、黙って遠くから見ていました。…愉悦に浸っていたこともあります…。罵られて、当然です」

提督「…みんな、元に戻ったんだな…」

山城「はい、そうだと思います…」

提督は泣いていた。
ポロポロと、子供のように。

提督「分かったよ、すぐに分かったんだ…。みんなが元に戻ってくれたことになんて…!!。すぐ気付いたんだ…!!。でも!!…体が、震えた。お前らが怖くて震えた。口は無意識にお前らを罵倒していた…!!お前ら全員を、俺は愛していたはずなのに…!!」

提督「ッ許してくれ…怖かったんだ…。お前らにまた何かされるのが!…お前らにまた嫌われるのが!!…だから…!!」

扶桑「…わざと遠ざけるような発言を、してしまったのですね…」

提督は泣きながら頷く。

完璧な人間なんていない。
提督だって人の子だ。
むしろそれは当たり前の反応とも言えるだろう。

扶桑「…きっとまだ遅くありません…」

提督「もう遅い…。俺は、お前らを、傷つけた…。出て行けと言ってしまった…」

扶桑「…いいえ!遅くありません…!!」

扶桑はキッパリと言い放つ。
うつむく提督は顔を上げた。

172 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 00:59:10ID: KuS6oNOe0


扶桑「…あなたと私達が築きあげてきたものは、こんなことで壊れません…!!あなたが私達を愛してくださる限り、私たちはこの体朽ち果てても、あなたの希望に応えます」

山城「…提督、あなたが思う以上に、あなたは好かれているんですよ?」

提督「扶桑…山城…」

扶桑「もう一度やり直しましょう。あなたにその気があるならきっとやれます。傷の手当が終わり次第、すぐにでも」

山城「はい、扶桑姉様!」

提督「っ…ははは。まさか、扶桑姉妹に励まされる日が来るなんてな…」

提督は涙を左手の包帯で拭った。

提督「…まずは川内に謝りに行かないと…」

扶桑(ところで山城…?)

山城(はい?扶桑姉様?)

扶桑(…あなた、もしかして、提督のこと好きなの…?)

山城(にゃにを言っているのですか、山城が愛しているのは扶桑姉ちゃまだけです)

扶桑(…妹と愛した人が被るなんて不幸だわ…)

山城(…半分こしましょう、扶桑姉様…)

178 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:02:00ID: KuS6oNOe0


比叡「ッ金剛姉様!!?金剛姉様!!!もうお止めください!!?何をしようとしているのですか!!」

金剛「ホワッツ?ハッハッハー。比叡、何をそんなに慌てているのですか、私は普通ですよ」

比叡「姉様!!どうして…あぁ!?そんな…!?」

金剛「…?何をそんなに動揺しているのですか比叡?」

榛名「榛名は…ッ大丈夫ですから!!」

霧島「落ち着きなさい榛名!!?あっぐっ抑えきれない…!!?」

阿鼻叫喚。

包丁を手に持ち、己の胸に突きたてようとする榛名を霧島が必死に抑え込み

比叡が金剛にすがりついて、もうやめるように泣きわめく。

金剛の右手にはノコギリが握られており。
その左手は地面に落ちていた。

比叡「姉様!?止血を!!?止血をしなければ!!?」

金剛「よいしょ」

金剛はその場でしゃがみ、今度は己の右足にノコギリを当てた。

比叡「ッご無礼お許しください!!?」

とっさに比叡は金剛の右手を蹴り上げ、ノコギリを飛ばしそのまま金剛を抑え込む。

金剛「ッ!!??離して!!?離してください比叡!!??姉の言うことが聞けないのデスカ!!??」

比叡「お許しください金剛姉様!?ですが言うことを聞くわけにはいきません!!!」

霧島「うぅっは!!!」

暴れる榛名に、とうとう霧島が拳を振り上げる。
榛名の手から包丁がこぼれ落ち、霧島も榛名を押し倒し押さえつけた。

比叡「お気持ちはお察しいたします!!…ですが!!落ち着いてください!!冷静になってください金剛姉様!!?そのようなことをして何になるのですか!!?」

180 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:04:16ID: KuS6oNOe0


あの瞬間。
全員の気持ちが元に戻ったあの瞬間。

比叡はまず慌てて己の姉の金剛を探した。

危ない気がしたのだ。

他の誰よりも。

果たして自室に一人いた金剛は。

己の左手にノコギリを食い込ませ、笑いながら刃を引いている最中だった。

比叡「姉様!!」

抑え込む金剛の体は傷だらけで、自分でナイフで刺したような傷や打撲痕も無数にある。
比叡の手から逃れようと金剛は暴れるも、そこにはいつもの力はない。

金剛「ッひ…え…い…」

焦点の定まってなかった金剛の目は徐々に落ち着きを取り戻し、己を覗き込む比叡の顔を見つめる。
金剛の視界はボヤけ始め、少し先の景色すら見えない。

比叡「…落ち着きましたか…姉様…」

何を泣こうとしているのだろう。
金剛は思う。
自分には泣く資格はない。
金剛は唇を噛みしめる。

提督は。
泣いていた。
ボロボロだった。
誰からも無視をされ、傷の手当もされず、血まみれの制服を何日も着て、助けを呼ぶも助けは来ず、皆を説得するも皆は言うことを聞かず、

左手はもがれ、右足はへし折られ。

なのに、それなのに。
彼は。
私に向かって言うのだ。

182 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:05:42ID: KuS6oNOe0


提督『…金剛、今日は出撃したらしいな…怪我はないか?他のみんなは…?』

私は彼を無視する。

提督『金剛。…お願いだ金剛、元に戻ってくれ…』

彼は泣いていた。
治療されてない生傷を晒し、全身に血をにじませ。
それでも私達を気遣う彼は。
近づく私に震える声で懇願する。

提督『…私はな…、金剛、お前とケッコンするつもりだったんだ…それぐらい、お前のことが大好きだったんだ…。執務室の指輪は、元はお前のために取り寄せたものなんだ…』

提督『お願いだ金剛、目を覚ましてくれ…』

私は。
このセリフのあと。
彼に。
ナニヲシタ?

比叡「…姉様?」

金剛は己の顔を右手で覆う。
次の瞬間。

己の右目の眼孔に親指を突き立てた。

比叡「ッねぇさまあああ!!?????」

慌てる比叡に瞬間、右手を押さえつけられる。
金剛の右目からドロリと血が溢れた。

金剛「比叡、私の右足を早く切り落としてくだサイ。へし折ってくだサイ」

比叡「何を言うんですか!?金剛姉様!!?死んでしまいます!!?」

金剛「ッ提督は!!!もっと酷い怪我をしまシタ!!!!!!!」

聞いたことのない姉の大声に比叡の体が固まる。

189 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:06:49ID: KuS6oNOe0


金剛「提督と同じ痛みを受けなきゃ…罰じゃありません…。…イエ、それ以上の痛みを受けなきゃ、罰とは言えません…」

金剛「提督は泣いてました…。絶望してました…。それでも提督は私に…」

金剛「愛してると言ってくれマシタ…」

なのに…私は…
彼の目を。

金剛「私には生きてる資格はないんデス…。…許される必要もないんデス」

金剛は笑う。
ニッコリと。
ともすれば、恋する乙女のように。

金剛「…比叡、全部の罰を私に与えたあと、私を殺してくだサイ。…私は、私が生きていることが、世界で1番許せない」

比叡「…」

比叡は金剛の首に両手を伸ばす。

霧島「っ比叡!!?」

金剛の目から意識が抜け、比叡は手を離した。

霧島「何をしているのですか比叡!!??」

比叡「ッ大丈夫です。絞め落としただけです…。金剛姉様を、私は早く入渠に連れて行きます」

霧島「ッ…びっくりさせないでください…」

意識を失った金剛をおぶり、比叡はフラフラと部屋から出て行く。

霧島の下では榛名が、嗚咽を漏らしながら泣き続けていた。

霧島「榛名…」

榛名「大好きだったんです…私は…提督のことが…。本当に大好きだったんですよ…!?…なのに…どうして…!!??」

霧島だって同じ気持ちだ。
彼女だって、提督を愛していた。
その気持ちを身のうちに隠し。

霧島「…謝りましょう、榛名…。四人みんなで、誠心誠意、謝るんです…。…きっと提督は私達を決して許してくれはしないでしょう…それでも…そうするしか方法がありません…」

榛名を抱き抱えて、霧島も泣く。
二人のすすり泣く声だけが、人気のない廊下に響く。

195 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:10:54ID: KuS6oNOe0


武蔵「…」

大和「…」

長門「…」

陸奥「…」

海洋の真ん中。
平和な海。
先日奪還した海域。
敵影はなく。
波も穏やかだ。

武蔵「…ゆき…かぜ…」

彼女の沈んだその場所に。
当然、彼女の影はなく。
遺留品なんてものもそこにはなく。
真っ暗な深海だけが、口を広げて底にある。

バシャリと武蔵は膝をついた。
そのまま岩石のように拳を握り、己の頭を殴りつける。

なんども。
なんども。

武蔵「…私は…」

鈍い殴打音。
額は割れ、血がにじむが、武蔵は手を止めない。

武蔵「…私は…」

大きく拳を振りかぶり、己の頭を撃ち抜く。

武蔵「…ッなんて…ッことを…!!」

ボロボロと涙をこぼしながら、武蔵は両手を水面に叩きつけた。

武蔵「許してくれ…!!許してくれ雪風…!!!この愚かな武蔵を許してくれ…!!!」

唇を噛み締め、後ろの三人は目をそらす。

長門「…武蔵だけではない…」

震える長門。
その目に威厳はなく。
その体には覇気もない。

長門「私達だって、同族だ…」

197 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:12:02ID: KuS6oNOe0


陸奥「…提督…」

ゾワリ。
己の足から伝わる悪寒。
私は。
この足で。
提督の左腕を…。

陸奥「うっ」

吐いた。
もう何度目かも分からない。

己の足が視界に映るたびに、提督の左腕を踏みつけたあの感触が蘇り、頭を狂わす。

己の足が、世界で1番醜い、血みどろの怪物の足に見えるのだ。

大和「…どうして…こんなことに…」

何が最強だ。
何が超弩級戦艦だ。

…隣の友達(雪風)も守ることができなかったのに…!!!

武蔵「許してくれ…許してくれ雪風…!!」

大和「…ッ…」

助けてほしい。
気が狂いそうだ。
胸はとうに張り裂け、頭はミキサーをかけられたようにグチャグチャで。
助けてほしい。
咄嗟にいつも助けてくれる、笑顔のあの人の顔を思い浮かべようとするも。

その人は。
彼女の大好きな提督は。
世にも恐ろしい顔で、憎しみのこもった片目で、大和のことをじっと見つめてくるのだ。

大和「ッぐ…ッあ…」

敵影はない。
海は静かだ。

200 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:14:01ID: KuS6oNOe0


バチャリと。

??「…」

海から、四人の目の前に影が立ち上がった。

203 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:15:10ID: KuS6oNOe0


武蔵「ッ!!?」

深海棲艦。
とっさに四人は砲塔を構えるも動きが止まる。

現れたのはレ級。

最強の戦艦。

長門「ば…かな…」

陸奥「そ…んな…」

レ級が現れたことに驚いているのではない、

レ級「…シンカイノソコッテ、ツメタクテ、サムクテ、トテモカナシインデスヨ…」

レ級の言葉に恐怖したわけではない。

白い肌。
黒いフード。
覗く不気味な青白い光を灯す瞳。
なにより。

その手に握る、見覚えのある双眼鏡。

レ級「…ドーシテ、ワタシヲシズメタンデスカ…」

武蔵「ッゆ…き…か、ぜ…」

レ級「キライデス、コノヨモ、ウミモ、オモイデモ!!!ゼンブ!!!ゼンブ!!!」

吠える。
砲塔が立ち上がる。
すぐに回避しなくてはいけないのに、四人は縫いつけられたようにその場から動けない。

レ級「ユルシハシナイ…!!!ワタシカラゼンブヲウバッタオマエタチヲ…!!!!コンドハ、ワタシガゼンブ、ウバッテヤルンダ!!!!」

砲塔が、動けぬ四人に向かって火を噴いた。

208 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:20:33ID: KuS6oNOe0


明石「よきかな、よきかな」

概ね計画通りの予想通り。
ほとんどの艦娘の心は壊れ使い物にならなくなっており、提督ももう肩書きだけの置物だ。

鎮守府最高戦力の、間抜けな空母たちは死に場所を求めて何処かへ行った。
戦艦達も、雪風を沈めた海域へ赴いた。

今頃きっと、明石が手渡した雪風のストックの双眼鏡を持つただのレ級相手に、沈められていることだろう。

明石は電話を耳に当てながら、ひざかけ椅子に座りクルクル回る。

明石「まぁ心配なのは、レ級が私が渡した台本通りに、キチンとセリフを言えたかどうかだけど…」

???「…よく練習してたぞ。それは問題ないだろう。…問題は、こちらの計画に感づいた艦娘二人だが…」

明石「マヌケよ、マヌケ。ゼンブ私の思惑通り。不知火も大井も。脅かせてくれるかと思ったけど、全然そんなこともない。むしろ、私が開発しようとしてたものをわざわざ作って使ってくれたから手間が省けたわ」

明石は電話の相手に向かって歌うように言う。

明石「計画は順調。艦娘と提督の間の絆も無事破壊。もうここにまともに戦える艦娘はいない。あなたの望みどりよ」

明石は笑った。
面白くてたまらないというように。

明石「というわけで、この鎮守府、もう今は動かぬ的と一緒よ。早く攻め落としちゃって」

明石は笑う。
その目には怪しい水色の炎が灯っていた。

明石「…私の愛する深海提督さん?」

221 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 01:26:28ID: KuS6oNOe0

さぁそろそろお眠の時間です!

このssはいろーんなss見て昂ぶってわっしょいしてる作品です。

ぶっちゃけ似た作品は多いと思います!!!(正直)

でも生暖かい目で見守ってください…
お願いしますなんでもしますから…!

話はいちよ、書溜めでは完結してます。

また明日の20時くらいに更新再開しようと思いますので…

ではでは良い夢を…

296 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:10:59ID: KuS6oNOe0


お待たせしました!
たくさんのコメントありがとうございます!

そして狛枝提督の皆さん、すみません…
多分今日の話は、絶望分少なめです…

ー 今日の格言 ー
賞味期限が過ぎた漬物は食べないようにしよう…はうっ…

299 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:13:01ID: KuS6oNOe0


時雨「…そんな」

夕立「……ぽい」

天龍「…」

龍田「…」

鎮守府玄関。
小さな荷物をまとめて出て行こうとする二人の軽巡に慌てて声をかけた二人は、ヘタリとその場に座り込む。

天龍「…あったりめーだろ…。許してもらえるはずがねぇだろ…。俺たちがしたのは、そういうことだ…」

時雨「…天竜さんは、それでいいの…?」

天龍「…ッ嫌われちまったんだ…!…提督が、出てけって言ったんだ…!…どんなに一緒にいたくてもよぉ!提督が俺たちのこと嫌いなら、仕方ないだろ!!」

天龍の目は泣きはらし真っ赤になっており、普段は強い龍田さんも、力なくどんよりと、焦点の合わない目で前を見つめている。

時雨「…ふたりとも…」

それ以上二人は何も語らず、玄関から出て行った。

夕立「…時雨…夕立達も…きっと許してもらえないっぽい…」

時雨「…うん」

夕立「…それでも行くっぽい?」

夕立の問いに、時雨はうつむく。

時雨「…許してもらうことに意味があるんじゃない。謝りにいくことに意味があるんだよ。…どんなに怖くても、行かなきゃ」

夕立「…ぽい…」

時雨「罵られて、罵倒されて、全部受け入れたら、夕立、一緒に沈もう…」

時雨「提督に愛されない、僕の人生なんて無意味で無価値だから…」

二人は再びフラフラと歩き出す。
天龍達とは反対方向へ。
提督を探して。

301 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:14:33ID: KuS6oNOe0


解体工房は。
艦娘で溢れかえっていた。

北上「離して!!?離してよおおおお!!!??」

球磨「離すもんかクマ!!!???」

伊9「そこをどくのね!!」

伊58「どきません!!」

羽黒「もう誰でもいいです!?私を殺してください!!!」

那智「がっ!?この馬鹿力め!!落ち着け!!」

妙高「ぶべらっ!!」

解体プレス機に殺到する艦娘を、姉妹艦や他の艦娘が押しとどめ、自傷行為に走る艦娘を、さらに他の艦娘が抑えつける。

龍驤「…」

隼鷹「どーしてこんな早まった真似をしたのですか!?」

両腕から血を流す龍驤の手に、隼鷹は包帯を巻いていく。幸い、とっさに止めたせいで切断こそそれてないものの、傷は深い。

龍驤「…この気持ち悪い手を、取り払ったら、あの人はもう一度私に、笑ってくれるかと思って…」

隼鷹「悲しむに決まってるじゃない!!?そんなことをしても何の解決にもなりません!!!」

302 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:15:42ID: KuS6oNOe0


また入渠の風呂場も艦娘をで溢れかえっていた。
金剛を筆頭に、己で己を傷つけた、もしくは傷つけあった艦娘が次々に運び込まれ、手におえない状況だ。

那珂「高速修復材も人手も足りない!?誰か!!手伝って!!!?」

由来「今、名取達が高速修復材を取りに遠征に行ったけど…とてもじゃないけど数が間に合わない…!」

那珂「他の鎮守府にも譲ってもらえるように要請して!もう何が何だか…!」

比叡「ダメです!?高速修復材何個使っても、お姉さまの傷が塞がりません…!!」

那珂「…本人が治る気がないと治らないんだよ…!?入渠も高速修復材も、あくまで自然治癒力を劇的に高めてくれるだけなんだから!!。だいたい、普段なら艦装がダメージを吸ってくれるから、ここまで深いケガなんて滅多にしないし!!!」

次々と運ばれてくる艦娘。
入渠の湯はとっくに血の池のように真っ赤だ。

那珂「傷がみんな深すぎる…!?あぁ!!もうだめ!!死のう!!!」

那珂「……アイドルは沈まない設定じゃなかったみたい…だね☆……」ぷしゃあああ

比叡「誰か那珂ちゃんを止めてええええ!!?」ヒエエエエエエエエエエエエエエッ!!?

304 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:18:02ID: KuS6oNOe0


響「雷…どこに行くつもりだい?」

武器庫。
勝手に艦装を身体に取り付け始める雷に、響は問いかける。

雷「みんな冷静じゃないわ。…私が、時間を、稼がないと…」

響「…暁を見ただろう?…まさか君まで壊れてしまったのかい…?」

雷「…そうね。壊れてるかって言われたら、きっと壊れてるのでしょうね」

雷はコロコロと笑う。
その目は泣きはらして真っ赤に腫れていた。

響「…もう1度聞こう、どこに行くつもりだい?」

雷「海よ。…見たことがないほどの敵の大艦隊が近づいてきてるわ…」

響「ッなんだって!!?」

雷「ほんとよ…司令室のモニターに一瞬、映ったの。…今はきっと潜行しているでしょうから、映ってないだろうけど…」

響「こんなことしてる場合じゃない!?早くなんとかしないと!!?」

雷「そうよ、でもどうするの…?」

言われて響はハッと気づく。
今、この鎮守府にはまともに戦える艦娘がいない。

雷「空母の皆さんはどこかに行っちゃったし、戦艦の人たちもいなかったわ…。動ける私たちがなんとかするしかないの…」

響「提督には…!提督にはそのことは伝えたのかい…!?」

305 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:19:55ID: KuS6oNOe0


雷は笑う。
その体は震えていた。
泣きはらした目から、再び涙が溢れる。

雷「…伝えてないわ…。…だって…」

雷「…どんな顔して会えばいいか、分からないんですもの…」

ボロボロと。
聞いたことのない、弱々しい雷の震えた声に、響は言葉を失う。

雷「…何度も伝えようと思ったわ…。でも…無理なの…。私は…。提督に会う資格はないの…」

雷「…だから響。伝えるのはあなたにお願いするわ…。私は…時間を…稼ぐから…」

響「時間を稼ぐって言ったって…!!こんな言い方はしたくないけど、君が一人で稼げる時間なんて限られてる…!!!冷静になってくれ雷」

雷「私は冷静よ、響。壊れているけど、冷静なの」

雷はガチャガチャと響の見慣れない艦装を取り付けていく。
丸い、棘のついた、球体。

響「機雷…!?しかもこの量…!?雷!!?君は…!!?」

雷「ええ、自爆するつもりよ」

響は今度こそ言葉を失った。

雷「みんなは、私が守るから。提督に受けてきた恩は全部返すから。あなたたち、第六駆逐艦艦隊の罪は私が償うから」

雷「響、後のことはよろしくね」

響「…このまま行かせると思うのかい?」

雷「…時間がないの、こうしてる今も、あいつらはここに向かって近づいてきてるわ」

響「悪いけど、ここを通すわけには行かないよ。死にに行く姉妹を見捨てることなんてできない…!!」

雷「…響、提督にこのことを伝えてね。…あとこれは最後にお願い」

雷「提督のこと大好きでしたって伝えておいて」

雷が手のひらから何かを落とす。
あれは

響(ッ閃光手榴弾!!??)

直後目の前が閃光に包まれ、薄暗い武器庫から太陽が現れたように光が溢れる。

響「ッく!!?」

ようやっと目が開いたその時には、雷の姿はどこにもなかった。

306 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:22:03ID: KuS6oNOe0


島風「…」

裏庭。
人の気配はなく、物静かだ。

木陰の下のベンチに腰掛ける島風は、連装砲を抱えながら、小さく震えている。

この場所で、この木陰の下で提督と出会った。
この裏庭で、提督とかけっこした。

思い出深いその場所でも、島風の心の傷は癒えないばかりか、ますます傷の深さを増していく。

島風「…私…。連装砲ちゃん…。私…」

泣く島風を連装砲がなだめるが、島風の目から涙は止まらない。

島風「…私ね、ここでよく提督と遊んだんだよ…」

楽しかった。
提督の困ったような笑顔が大好きだった。

島風「追いかけっこもしたし、駆けっこもした…」

なのに…
なのに…

島風「…どうすればいいの…私はどうすればいいの…!?…分からないよ、連装砲ちゃん…!?」

今だって耳をすませば、提督の声がまるで昨日のように蘇ってくるのに。
大好きなその声が頭に響くのが今はただ辛い。

ー しまかぜ!…しまかぜはどこだ! ー

307 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:23:39ID: KuS6oNOe0


島風「…」

胸が締め付けられる。
会いたくない。
無意識にそう思う反面、会って謝りたいとも思う。
でもきっと。
もう二人の関係は元には戻らない。
この太陽の下で再び遊べることなんて2度とない。

ー しまかぜを見なかったか!? だれか!! ー

提督に酷いことをしてしまった。
提督はきっと島風のことを嫌いになってしまっていることだろう。
…謝って、許してもらえなかったら…

考えるだけで怖い。
きっとその時は、壊れてしまう。
考えるだけでガタガタと震えだす体を、連装砲ちゃんをギュッと抱きかかえ抑え込む。

「ッ島風!!?やっぱりここにいたか!!!」

声が響く。

幻聴?
…いや幻聴ではない。

うつむく島風は思わず顔を上げた。

309 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:25:17ID: KuS6oNOe0


島風「ッてい…とく?」

声のする方を見てみると、松葉杖をつきながら、体を引きずるように、こちらに向かってくる提督の姿があった。

島風「ッ!?」

提督「逃げないでくれ島風!!お前にしか頼めないことがあるんだ…!!」

逃げ出すように立ち上がった島風の目の前に、あっという間に来た提督。
島風は目からボロボロと涙を流し震える。

島風「てい…とく…!?あのね…!!?…しま…かぜ…あんなことするつもりは…なかったの…あんな酷いことするつもり…なかったの…」

息を切らし、こちらを見つめる提督。

島風「ごめんね…!?ごめんなさい提督…!?。…島風のこと…嫌いにッなっちゃったよね…ゆるして…許して…!?ごめんなさいごめんなさい…!!?」

わんわんとなく島風を見つめた提督は。
島風の肩に右手を回し、抱きよせた。

島風「ッ!?」

提督「…大丈夫。許そう」

島風「ッてい…とく…」

提督「全部許す。…もう大丈夫だ」

島風「ッあんな…酷いことをしたのに…?」

提督「あれは島風の本心ではなかったのだろう?…それに、私はお前のことが好きだ。…出来るなら、元の関係に戻りたいと思っている」

提督「許すよ、島風。またこの樹の下からやり直そう」

島風「ッヒグッうわあああああ!!」

大声で泣き出す島風を慌ててなだめる提督。
そうこうするうちに、山城と扶桑と響が駆けてきた。

響「よかった…!島風が見つかったか…!」

扶桑「どうしたら松葉杖であんなに早く走れるのですか…」

息を切らす二人に半眼の山城。
山城はジトッと抱き合う二人を見つめる。

山城「…提督…そろそろ離れて、本題に移らないと…」

提督「ッ!そうだ島風!…お前にしか頼めないことがあるんだ」

抱きついたまま離れようとしない島風は、提督の胸に埋めていた顔を上げる。

島風「ッ私にしか…頼めないこと?」

響が進みでて、慌てた口調で早口で申しでる。

響「ッ雷を。雷を連れ戻して欲しい…!。鎮守府最速の君なら、間に合うはずなんだ…!!」

310 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:26:58ID: KuS6oNOe0


曙「……」

霞「……」

明石「…あれ?こんな時に誰かと思えば辺境鎮守府毒舌コンビじゃないですか…!。工房に何かようですか…?」

曙「…工房に用はないわ…」

霞「…明石、あなたに用があるの…」

明石「…はて?なんでしょう…。そんな物騒なものに全身包んで、殺気を立てて…。私、二人を怒らせるようなことした思い出はないんですけど…」

曙「とぼけないで!!!」

霞「私達の気持ちを弄んだくせに!!?」

二人は明石に手にもつ単装砲を向ける。
しかし明石は動じる様子なく、へらへら答えた。

明石「何を言ってるんですかね。…気持ちを弄んだ??。…あなた達なんて、元から提督が大っ嫌いだと公言していたでしょう?。まさか、あんなけ嫌い嫌い普段から叫んでおきながら、気持ちもへったくれもあったんですか?」

曙「ッ……!!」

霞「ッ……!!」

明石「あなた達は提督が嫌いなんでしょ?…だから提督がひどい目にあっていても愉悦を感じてた。何か違いますか…?」

曙「ッち…がう…!!」

霞「…ッ私は……!」

明石「だいたい、何を根拠に私を攻めに来たのですか?。私は責められるようなことをした思い出はありませんけど…」

曙「ッだっておかしいじゃない!!周りのみんなも!!!私も!!!みんなあのクソ提督のこと…信用してたのに、どうしてあんなことになったのよ!!」

霞「みんながおかしくなってる時、あなただけがいつもと変わらなかった…!なら、あなたを疑うのは当然のことでしょう…!!」

激昂する二人。
しかし明石は余裕を崩さない。

316 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:30:34ID: KuS6oNOe0


明石「とばっちりもいいところです。皆さんが勝手におかしくなってたんじゃないですか。だから唯一まともだった私を疑う?論理の飛躍もいいところです」

曙「うるさい!!」

明石「はぁ…せっかく、美味しい話しがあるのに、聞いてくれそうもないですね…」

明石は大げさに肩を下げ、大きなため息をついた。
眉をひそめる霞が訝しげに口を開く。

霞「なによ、その話って」

明石「後悔はしてますか?」

明石はニヤリと笑った。

明石「今回の件、あなた達は、後悔していますか?。提督に嫌われてしまったのではないかと不安ではないですか?。もうそばに居られないのではないかと恐怖していませんか…??」

曙「ッだったら!!なんだっていうのよ!!」

明石「ここに、提督から特定の艦娘の記憶を書き換えるスイッチが偶然二つあります」

明石は目の前の机の上に、赤いボタンのついた銀の小さな箱を二つ置く。

319 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:32:05ID: KuS6oNOe0


霞「…なに…それ?」

明石「今回の件を受けて、私はずっとこれを開発していたのですよ。…提督から、艦娘から暴力を受けた記憶を抹消するスイッチ」

曙「そんな…」

そんな便利なものがあるはずないっと言おうとする曙のセリフを遮り、明石は言葉を並べる。

明石「ただ、問題点がありまして、スイッチは使い捨て。一つのスイッチで一人の艦娘からの暴力の記憶を消すことしか出来ず、また、まだ試作段階です。量産できる予定はありません」

曙「…」

霞「…」

明石「そうですよ、これを使えばあなた達は、提督に自分たちが行ったことを忘れてもらうことができます」

明石「後悔はしてますか?…してますよね。不安ですか?…当然ですよね。恐怖してますか?…当たり前ですよね」

曙「…そのスイッチ、たくさん作れないの…?」

明石「ええ、なんて言ったって偶然できたような物ですから。ここにある二つで今のところ限界です。…この先、新しいスイッチが製造される見込みはほとんどありません」

霞「…そんな…」

明石「でも…そうですね。特別に二人にこのスイッチをあげましょう。1番最初に尋ねてきてくれた、景品です」

曙&霞『ッ!!?』

明石「ただし、今すぐは使えません…。まだもう少し調整が必要なんです。…だから、あなた達は、私が工房の奥に引きこもってこのスイッチを調整している間…」

明石「…またあなた達みたいに、邪魔しにくる艦娘を追い払ってくれることをお願いします」

323 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:33:52ID: KuS6oNOe0


神通「…明石さん、いらっしゃいますか?」

工房に現れたのは神通。
そこにいつものおっとりとしたオーラはなく、完全武装でヒリヒリと張り付くような緊張感を放っている。

神通「お話があります」

工房の奥から足音。
神通は油断なく構えるが、現れたのは意外な二人だった。

曙「…」

霞「…」

神通「ッ誰かと思えば、あなた達でしたか…。明石さんは見かけていませんか…?」

曙「…えぇ。見かけていないわ」

霞「ここには明石はいないわよ」

神通「嘘が下手くそですね」

緊張感が高まる。

曙(スイッチは二つしかない…)

霞(だから訳を話すわけにもいかない)

曙(そんなことをしたら、そのスイッチの壮絶な奪い合いが始まってしまう)

霞(それに…)

曙&霞((私が使わなきゃいけないんだ…!!))

神通「…なぜ庇っているのか分かりませんが、そこをどいてください」

神通「…私は穏便に済ませたいんです」

膨らむ殺気。

曙「悪いけど、通すわけにも、邪魔させるわけにもいかないわ」

霞「ここは一方通行よ。元来た道を帰りなさい」

神通「…そうですか…」

神通「…ッでは、押し通ります!!!」

326 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:35:59ID: KuS6oNOe0


明石『ほんとバカだよねー。そんな都合の良い記憶を消去させるスイッチなんて、あるはずないのに。まぁ私はここでもう一度、ゆっくり新しいスイッチを作るのに専念しますよっと』

電話を耳にあてて、両足を机の上に投げ出し、ポテチをつまむ明石はケラケラ笑いながら言葉を紡ぐ。

深海提督『くっくっく…相変わらず良い性格をしているな…。だが、護衛に選んだのが駆逐艦2隻って…いいのか?正直、役に立つとは思えんぞ』

明石『あら、あの二人を舐めてもらっては困るわ。確かに、普段の二人はそこまで強いわけじゃない。…でもね』

明石『こと提督が絡むと、あの二人は異常に強くなるわよ』

深海提督『…わからんな。なぜ突然強くなる?』

明石『恋は女の子を強くするのよ。昔からね☆』

ズゥーン…

地響きのような音ともに、頭上の天井からススが降ってくる。

明石『おや、早速始まったみたいね。攻めてきた賢い艦娘は誰かしら…?』

モニターに映し出される映像。
そこに写っていたのは。

明石『ッゲ…神通…』

深海提督『…そいつも強いのか?』

明石『…あの二人を化け物としたら、彼女は魔王ね』

明石『さて、どこまで二人は食い下がってくれるかなぁ…』

327 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:38:18ID: KuS6oNOe0


赤城「…おかしい…」

瑞鶴「こんな時にまでお菓子ってどんなけ食い意地張ってるのよ一航戦!!?」

赤城「違います!そっちのお菓子ではありません!もちろん興味はありますけど!」

洋上に浮かぶ四人。
ギャーギャー騒ぐ瑞鶴と赤木に、それと対照的に一言も言葉を発さない加賀と翔鶴。

赤城「私がいいたいのはですね!…どうしてこんなに敵が少ないのかということについてですよ!!」

赤城に言われてようやっと瑞鶴も気づく。
ココは現在攻略中の海域の最前線の一つ手前。
死に場所を求めて突っ走る二人を必死に追いかけて辿り着いたこの海域は、解放こそされているものの、まだまだ敵勢力が数多く残る危険な海域だ。

…なのに。

瑞鶴「…そう言われれば、確かに…。イ級1匹見かけないって珍しいわね…」

赤城「さっきから哨戒機を飛ばしていますが、やはり近海に敵影はありません…」

瑞鶴「…ま、いいじゃない、敵がいない分にはさ。二人がこの場所で頭を冷やしてくれるのを、のんびりまてば良いわけだし…」

楽観視する瑞鶴に、何か嫌な予感を感じる赤木。

翔鶴「…敵がいなくては困ります…。一つでも多くの敵を屠って、私は…」

瑞鶴「まだそんなこと言ってるの?翔鶴姉…。良い加減、頭覚めたでしょう?…ほら、鎮守府に帰ろうよ」

加賀「…おかしいですね…」

今までずっと、険しい顔をしていた加賀が口を開く。

333 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:44:18ID: KuS6oNOe0


赤城「あっ!やっと口を開いてくれたのね加賀さん!」

加賀「…やけに海が静かです…。敵がまるっきり…。いません…」

どこまでも広がる平和な海。
今世界中を探しても、深海棲艦が1匹もいない海域なんてほとんどないのではないだろうか。

瑞鶴「ラッキーだっただけだって…!。それに敵なんかいたら困るでしょう…!ここには空母しかいないんだから!…敵に近づかれたらその瞬間おしまいよ?」

加賀「…胸騒ぎがします…」

加賀は眉をひそめた。

赤城「加賀さん、一度、鎮守府に帰りましょう…。様子を見に行った方が良い気がします…」

加賀「…いえ、私達はこのまま奥の海域を目指します。…赤木さんまで巻き込むつもりはありません…どうか引き返してください」

赤木「そんなこと言われても私は引き返さないの…。あなたが1番よく知ってるでしょ?加賀さん」

加賀「…」

瑞鶴「翔鶴姉もさ…。そんな自暴自棄みたいなのはやめようよ…。そりゃ怖いよ…。今提督に会うのは…。こんな海域にくるよりも。ずっと…」

だから。
私もあの場所から逃げ出したかったから。
理由をつけて二人を追いかけたのかもね…。

瑞鶴「…でも。会わなきゃいけない。どんなに怖くても。どんなに辛いこと言われても。何も言わずに去るなんて、ダメだよ」

翔鶴「…瑞鶴は…強いわね…。本当に…。ビックリするくらい…」

瑞鶴「へへーん!今頃気付いたの?翔鶴姉?」

翔鶴「…ふふ」

ようやっと。
ずっと光のない目をし、その口を真一文字に結んでいた翔鶴の笑顔が溢れる。

335 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:45:24ID: KuS6oNOe0


そして爆発した。
巨大な水柱が立ち上り、水煙があたりの視界を襲う。

338 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:46:28ID: KuS6oNOe0


瑞鶴「……は?」

あまりに突然の出来事。
呆然とする瑞鶴の頭上を口から血を流しながら、翔鶴は宙を舞い、そして水面に叩きつけられた。

瑞鶴「ッ翔鶴姉!!!???」

赤城「…魚雷!!??どこから!!??」

しかしあたりの海面に魚雷の軌跡はない。

加賀「ッまさか…」

加賀は真下を見下ろす。
小さな気泡が、足元に立ち上ってきていた。

加賀「ッ赤木さん!!!!」

赤城「きゃあ!!??」

加賀が赤城を突き飛ばすように抱き抱え、立っていたその場所を離れた次の瞬間。赤城の立っていた水面が爆発した。

341 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:48:09ID: KuS6oNOe0


加賀「ッ間違いありません…!!?。敵は!!真下にいます!!!」

瑞鶴「真下!!?真下から真上の私達に向かって魚雷を打ってきてるって言うの!!??」

加賀「ッ瑞鶴!!!??」

瑞鶴「わかってる!?」

瑞鶴が飛びのいたと同時に瑞鶴の立っていた水面が爆発する。
あたりの水煙はどんどん濃くなっていく。

瑞鶴「うっくそ!?雨みたい…!?視界も悪い…!!」

それでも瑞鶴は駆け、力なく浮かぶ翔鶴に近づく。

瑞鶴「翔鶴姉!?平気!!?」

翔鶴「迂闊…でした…。ごめんなさい…。大破してしまったようです…」

加賀「ッすぐにこの海域を翔鶴を連れて離脱します!!!真下の気泡に気をつけて!!?」

赤城「真下に構えられては応戦する術がありません…!!早く距離をとりましょう…!!」

瑞鶴「真下にいるってことは潜水艦でしょ!?どうしてよ!!?この海域に潜水艦なんか出てきた報告!!一つも聞いたことないわよ!!??」

加賀(普段いない敵…!見当たらない普段いる敵…!!。まるで待ち伏せしていたかのような行動に、深海棲艦にはないはずの海底に張り付き、ソナーから逃れるという知性…まるで優秀な指揮官がいるかのような敵の行動…!!)

加賀「ッくそ!!?ハメられました!!?」

赤城「瑞鶴急いで!!」

瑞鶴「怪我した翔鶴姉を連れてちゃこれが限界よ!!?」

翔鶴「私を置いていきなさい瑞鶴!!。もとより死ぬつもりだったんだから!!」

342 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:48:58ID: KuS6oNOe0


瑞鶴「バカ!!絶対に死なせないんだから!!!」

いくつもの水柱が爆音とともに沸き立つ。
とてもかわしきれる量ではない。

加賀「チッ!」

加賀は高速走行しながら、艦隊の最後尾に躍り出て、矢をつがえる。
狙うは真下。
自分の足元。

赤城「何をするつもりですか!?」

加賀「ッ敵も私たちを追って深海を移動してます…!!。敵がどういった方法で私たちを追跡してるのかは分かりませんが、この辺り一帯の海面を吹き飛ばせば、目くらまし程度にはなるでしょう…!!」

矢を引きしぼる。

加賀「もったいないですが、悠長なことも言ってられません…!」

加賀「発艦してください!」

放たれた烈風は海面に激突すると同時に、轟音をたてながら後方一帯の海面を宙に打ち上げた。

瑞鶴「相ッ変わらずバカげた威力ね…!?」

無数に立ち上っていた水柱が止む。
敵の攻撃の手が怯んだ。

赤城「今のうちに駆け抜けます!!」

四人は全力で鎮守府を目指し走行する。

343 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:49:59ID: KuS6oNOe0


深海提督『ん?ありゃりゃ仕留め損なったか…』

明石「どうかしたんですか?」

深海提督『いや、誘導に乗って出撃したそっちのバカな空母四人をどうせなら沈めてやろうと…潜水艦を派遣してみたんだが、失敗したみたい』

明石「…そうですか」

深海提督『ちぇー。せっかくあの四人が現れるであろう海域を予測して、とっておきの策も渡したのに…。
まさか海面ごと吹っ飛ばしてくるとは…。意外に冷静だな。赤城あたりか…?…あるいは…』

明石「彼女たちはどちらに?」

深海提督『そっちの鎮守府に引き返してるみたいだけど、一人は大破、もう一人は中破。…計二人はもう戦えないみたいだな。足止めに送るのは1部隊で十分だろう』

明石「…」

深海提督『辺境鎮守府への奇襲。そして本土上陸。そして我ら深海の悲願の成就。いずれも邪魔されるわけにはいかないからな』

これまで行ってきた作戦の中で最も大規模な前代未聞の戦闘が巻き起こることだろう。
…しかし、深海提督に緊張している様子はない。

深海提督『それより、俺はそっちの方が気になるなぁ…。魔王と化け物の戦いはどうなっているんだい?』

問いかけに、明石はモニターに目を移す。

明石「こちらは…」

344 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:51:05ID: KuS6oNOe0


神通は。
攻めあぐねていた。

神通(くっ…!?)

曙「…ッ!!!」

超近至近距離の格闘戦。
しなる鞭のような曙の回し蹴りを、かがんでかわし、返す手で神通は一気に踏み込んで必殺の掌底打ちを放つも、割り込んできた霞の突きに軌道をそらされ、攻撃が外れる。

一気に拳でラッシュを仕掛けてくる霞の拳をすべて払い、空いた霞の腹部に槍のような中段の蹴りを放つも、咄嗟に入れ替わった曙が攻撃を弾く。

一進一退。

神通(ッ即席のコンビネーションのレベルではないですね…!!)

曙と霞は交互に立ち位置を素早く変えながら、神通に休む暇を与えず、攻撃を加え続ける。
神通からの手酷い反撃が来た時は即座に立場を変え攻撃を受け流す。

つかみどころのない激流のようなコンビネーションに神通は顔をしかめる。

346 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:51:52ID: KuS6oNOe0


神通(この二人の指導役は…ッ確か北上さんでしたか…!!?)

後輩育成には特に興味はないとヘラヘラ言っていた北上。
冗談ではない。
後輩達はキチンと、先輩から、技を技術を獣のような貪欲さで盗んでいた。

神通(ッ!)

曙の後ろ蹴りが神通の頬をかすめる。

曙「ッチ!!?」

ガラ空きの背中に手刀をたたき込もうとするも、横あいから襲いかかってきた霞に攻撃は中段される。

神通(これではまるで…本当に北上さんと大井さんをいっぺんに相手しているみたいですね…!!?)

彼女達の戦い方は正しい。
もし格闘戦ではなく、砲雷撃戦を彼女達が選択していたのなら、とっくの昔に彼女達は地に沈んでいたことだろう。

工房という狭いフィールド。
この狭いフィールドでは、神通は砲撃を決して外さない。
もちろん、二人の砲撃も神通を捉えられるだろうが、そこには絶望的な火力と装甲の差がある。

相打ちにすら持っていけないのが関の山だろう。

なら、砲撃をさせなければいい。
休みのない連撃で神通の体力を奪い、肉弾戦で落とす。

交互に戦う曙と霞の二人と、一人で戦い続けなければならない神通との間のスタミナの消費量には漠然とした差がある。

現に、二人の攻撃は徐々に神通を捉え始めていた。


霞(ッいける…!!)

霞の拳が頭を振り拳を避けた神通の髪を撃ち抜く。
明らかに神通の目には焦りが見えた。

曙(ッこれなら…!!)

曙の蹴りが神通の脇腹を浅く裂く。
二人の攻撃は通用している…!!。

次の瞬間、霞の足払いが神通にクリーンヒットし、神通は体勢を大きく崩した…!!

曙&霞((好機…!!!!!))

隙は決して逃さない。
二人は神通の間合いに普段より、さらに踏み込み、必殺の一撃を…

347 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:52:39ID: KuS6oNOe0


弾け飛んだ。



曙「ッーーーーーーー!!??」

霞「ッ!!??」

弾丸のような速度で左右別々の方向の壁際まで吹き飛び、叩きつけられる二人。
口から溢れる血が気道を塞ぎ、呼吸を止める。

曙「ッなに…が…!!?」

見えなかった。
神通の姿が掻き消えたと思った次の瞬間、体が弾け飛んでいた。

霞(ッこの衝撃…。あの瞬間に五発以上殴打されたっていうの…!?)

霞の体がガクガクと震える。
右肩と左肩、右太ももと左太もも、そしてみぞおち。

霞の体の五ヶ所には、拳の跡を残すほどの打撃跡が残っている。

「さぁ、早く立ちなさい」

神通改二「まだ戦えるでしょう?」

魔王は。
君臨する。

曙「…っは…」

そうだ。
この人にはまだこれがあった。

霞「…ばけ…ものめ…」

今までのは全部ブラフ。
まだ彼女は本気ではなかったのだ。

神通「こないならこちらから行きますよ」

上体を下げ、突進のポーズをとる神通。
狙いは。
曙だ。

曙(てい…とく…)

こんな時に脳裏をよぎるのはどうしてあいつの顔なのだろう…。
記憶の中のクソ提督は。ニコニコと笑っていて。
…なのに。
私が。
その笑顔を奪った。

神通が砲弾のような速度で向かってくる。
しかし曙にはその動きがやけにスローに見えた。

曙(ッ負けたくない。他の誰にもスイッチを渡したくない。…わたしはアイツと一緒にいたいんだ!!!!!)

跳ね起き。
迎撃する。

意地と意地が激突した。

349 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:54:43ID: KuS6oNOe0


島風「……いた!!!」

海上を駆け抜ける島風。
全艦娘最速にふさわしい速度で水面を魚雷より速く進み続けた彼女は、とうとう前方に目標の人物を捉える。

島風「…ッ雷!!!雷!!!!」

雷「……え?」

呼ばれた雷は後ろを振り返る。
その背中に積む、機雷…機雷…機雷の山。

島風「おっ…おう!??そんなにたくさんの機雷を積んでどこに行くの!!?」

雷「…」

二人の進む方向は同じ。
しかし、あっという間に島風は雷に追いつき隣に並ぶ。

島風「引き返そうよ雷!!」

雷「…わざわざこんなところまで来て貰って悪いのだけど…。引き返すつもりはないわ…。私がここであいつらを足止めしないと…」

一見、普段通りに見える雷。
しかしその目にはいつもの優しそうな光はない。

島風は一瞬気圧されながらも、言葉を続ける。

島風「ッこれは!提督のおねがいだよ!!」

雷「…え?」

雷は反射的に、立ち止まりその目を見開いた。

350 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:55:22ID: KuS6oNOe0


雷「…しれい…かん…が?」

島風「ッそうだよ!!ほら!!無線!!!」

島風は無線機を突き出す。

雷「あっ…が…そんな嘘…」

提督『嘘じゃないぞ』

無線から響く提督の声。
雷は頭を抱えてあとずさる。

雷「…ッしれい…かん…」

提督『頼む帰ってきてくれ…!。…私は雷に沈んでもらうことなんてこれっぽっちも望んでいない…!!』

雷「ッあ…あぁ…」

ー 違う ー

雷「だって…!!私は…!?…わたしは!!?」

提督『許す。許す…!!。…報告にあった深海棲艦の大艦隊も私がなんとかしてみせる…!!。雷が自爆する必要なんてこれっぽっちもない!!だから頼む…!!戻ってきてくれ…!!』

雷「…わ、たしは…」

島風「大丈夫だよ…。私も。どうすればいいか分からなかったけど。でも、もう一度提督とやり直そうって約束したから…!」

雷「…やり直せる…の…?私でも…まだ…?」

提督『もちろんだ!…当たり前だろ…!!』

雷「でも私は…私は!!?」

島風「…提督」

提督『…あぁ。報告と予測が正しければ、間も無くお前たちがいるその海域は敵大艦隊の攻撃射程範囲内だ…!!。…早急に離脱しろ…!!!』

島風「行くよ!!雷ちゃん!!行かないなら引っ張って行っちゃうんだから!!!」

雷「…うん…ッうん…!」

駈け出す二人。
安堵をつく提督。
二人の背後には暗雲が迫ってきていた。

352 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:56:26ID: KuS6oNOe0


最初は本当に何もなかった。
ボロボロの外装に、みかん箱の机と椅子。
すすけたカーテン一つ取り替える予算もなく、毎晩夕食はジャガイモ。

二人でいい鎮守府にしようと毎晩夢を語り合い、昼間は二人でガムシャラに働いた。

そうこうするうちに、仲間が増えて。

知らない海域にもどんどん挑戦して。
そこでまた新しい出会いがあって。
後輩の子達はみんな私より優秀ないい子で。

気がついたら、たくさんの友達とたくさんの仲間がいるどこよりも賑やかな鎮守府になっていた。

外装は綺麗に整えられて、みかん箱は立派な机と椅子に差し替えられて、カーテンも落ち着いた色の綺麗なものに取り替えて、夕食は毎日、違うものが食べれるようになって…

あの人と夢に語った鎮守府が、夢が、実現した。




でも提督知っていますか?
私、ちょっぴりあの頃が懐かしくて、みかん箱の机を、実は倉庫にとってあるんですよ。

355 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:57:39ID: KuS6oNOe0


…大切なものが増えるのは、同時に、守らなきゃいけないものが増えることを意味した。

友達が増えるたびに、守らなきゃいけないと息巻いた。
今から思えば傲慢だったかもしれない。
みんな私より強くて優秀な子ばっかりだったのにね…。
それでも私は守りたかったんだ。
…でも大切なものが増えるたびに私は実感した。

私はなんて無力なのだろうと。

どんなに訓練しても、戦艦の皆さんみたいに強大な敵と殴り合うことなんて出来ないし、どんなに頑張っても空母の皆さんみたいに、一度にたくさんの敵を倒すことも出来ない。
どんなに早く走っても島風ちゃんよりは速く走れないし、どんなに回避しても雪風ちゃんみたいにクルクルと避けれない。

…でもそれが諦める理由にはならない。

そう言ってくれたのは提督だった。

356 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 20:58:26ID: KuS6oNOe0


提督も同じだと。

自分も仲間が増えるたびに、自分の力のなさを実感すると。だから二人で頑張ろうと。

みんなを守りたいと思う気持ちは、傲慢かもしれないけど、嘘ではない。
この気持ちは偽りではない。
大切な大好きなみんなだから、傷つけたくないし、傷ついてほしくない。

…だから。

前を向く。

海。
どこまでも広がる海。
空には暗雲が立ち込め、前方からは今まで感じたことのない無言の圧力をヒシヒシと感じる。
ビリビリと肌を焼くような緊張感に、自然と喉が鳴る。

そんな己の体を叱咤し、私は準備を整える。

あれだけ守りたくて。
守りたくて。
誰よりも何よりも守りたかったあの人を。

…私はこの手で傷つけた。

司令室のモニターに映っていた不穏な影。
戦える艦娘はきっと私一人。

敵の勢力は不明。
どれだけいるのも不明。
誰がいるのかも不明。

だが、関係ない。

もう誰も傷つけない。
もう誰も傷つけさせない。

この場所からは。
絶対に。

一歩も先へは行かしはしない。

吹雪「……」

現れる黒い波のような大艦隊。
青、黄、赤の瞳がまるで海上でボンヤリとしながら揺れる提灯のようにユラユラと無数に蠢いている。

吹雪「…」

さぁ始めよう。

抜錨。

砲撃用意。

目標。

敵大艦隊の全滅。

吹雪「…特型駆逐艦。…吹雪」

その名乗りは敵の耳へは聞こえていないだろう。

たった1隻で何ができると中傷する敵の笑い声が聞こえる。

吹雪「いきます」

暁の水平線上に。

勝利を刻め。

359 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:01:24ID: KuS6oNOe0


『およ?およよ?おいおいそれはまじかよwww』

暗号化されてる無線から響く深海提督の笑い声。
明石は未だ激戦が行われているモニターから目を離し、無線を取る。

明石「どうしたんですか?…そんなに面白いことがありましたか?」

深海提督『いやwwwどーも、誰かは知らんが一人でうちの大艦隊に喧嘩売ってる駆逐艦がいるらしい』

明石「ッ!?こちらの動きがバレているのですか!?」

深海提督『なーに、ここまで入ってきたらそりゃカンのいい奴は気づくだろうよ。もう秘匿する気もない』

一体誰だ。
明石は思考を巡らせる。

明石(自暴自棄になって捨て身の特攻をやりそうなやつは何人かいる…)

深海提督『あぁ、そうだ。恐らく自爆狙いの特攻だろ。近づけさせなければ問題ない。艦載機を放て。戦艦による遠距離砲撃を開始しろ。…だが、攻撃は最低限だ。こんなところで弾薬を消費したくないからな』

明石の思考を読み取るように、深海提督は指示を出す。

いや。
まて。

一人だけいた。

自爆目的の特攻ではなく。
本気で勝ちに来る正真正銘の怪物が。

明石(…まさかね…)

明石は宙を仰ぐ。
再び工房全体を大きな振動が遅い、掃除の行き届いてない地下の天井からススが舞い降りた。

362 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:03:55ID: KuS6oNOe0


ー 半年と少し前 ー

Q.この鎮守府で最強は誰だと思いますか?

「そんなこと聞いてどうするっぽい?」

「まぁまぁ、アンケートみたいなもんですよ。次回の記事にするんです」

「よくわかんないけど、多分神通さんだと思うっぽい」

「おぉ…また神通さんですか…!。いやぁ神通さんって答える駆逐艦の子多いなぁ…」

「そりゃ、神通さん切れたら、まじ怖いっぽい…。夕立も少し思い出すだけで体が…勝手に…震えるっぽい…」

「なるほどなるほど。ご協力ありがとうございましたー!」

364 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:04:37ID: KuS6oNOe0


Q.この鎮守府で最強は誰だと思いますか?

神通「…そうですね…」

川内「うーん、神通じゃない?」

那珂「艦隊のアイドル!!那珂ちゃんでーす☆」

青葉「神通さんって意見が今の所ダントツで多いですね。なので本人に聞いてみようかと思って」

神通「…そんな…。私なんてまだまだですよ…。私より強い人なんてたくさんいますし…」

青葉「ほうほう!…それは誰ですか?!」

神通「…例えば、北上さんとか。あの人、普段はへらへらしてますけど、本気になったら私よりよっぽど強いですよ。…ただ滅多に本気にならないだけで…」

青葉「ほほう!貴重な意見ありがとうございました!!」

那珂「那珂ちゃんまさかのスルー!?」ガビーン

367 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:05:16ID: KuS6oNOe0


Q.この鎮守府で最強の艦娘は誰だと思いますか?

北上「んー?どーして私に聞くのさ?」

青葉「今の所、北上さんが1番強いという結論でして」

大井「当たり前ですよ!北上さんよりパーフェクトで強くて優しくて可愛い艦娘なんて他にいるはずありません!!!」

北上「ありがとう大井っち。…でも私より強い人はいるよ?」

青葉「!それは誰ですか?!」

北上「武蔵さんか長門さん。あの二人にはさすがに負けるねぇ…。なんていうのかな?スペック的にキツイ?…あとは赤木さんや加賀さんなんかも、最強って言ってもいいんじゃないかな…?」

青葉「にゃるほどにゃるほど…ご協力感謝します」

368 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:05:54ID: KuS6oNOe0


Q.この鎮守府で最強の艦娘は誰だと思いますか?

武蔵「…そんなことを聞くために私達四人を呼んだのか…」

長門「まったく…」

赤木「まぁまぁいいじゃないですか」

加賀「…」

青葉「それで、誰だと思いますか?」

長門「私の中では陸奥だな。…怒ったあいつは怖いぞ…。このビックセブンが半べそになるくらい怖い…」

加賀「結構駆逐艦の子に無視されたりして半べそになってるじゃないですか。安い涙ね」

長門「なんだと!?」

赤木「まぁ私達正規空母は、随伴艦の皆さんがいるか活躍できるのであって、最強ではないですね」

武蔵「やはり、単艦で最強なんてあいつしかいないだろう。この武蔵ですら一撃で大破させる馬鹿げた火力。魚雷を何発も食らっても壊れない耐久力」

武蔵「大和が1番強い。間違いないな」

370 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:06:36ID: KuS6oNOe0


Q.この鎮守府で1番強い艦娘は誰だと思いますか?

大和「…それで私のところに来たのですか?」

青葉「はい!…まぁ来るべくしてきたって感じですけどね」

大和「そんなことありませんよ。私は1番強くなんかありません」

青葉「またまたご謙遜を…」

大和「いえ、私より強い艦娘を一人知っています」

青葉「へあっ!!?…それは誰ですか!??」

大和「吹雪さんです」

青葉「…は?…聞き間違いでしょうか…?」

大和「吹雪さんですよ」

青葉「…そりゃ、初期艦ですから、確かに練度は高いですけどでも…」

大和「皆さん気づいてないだけです。いや吹雪さんが気づかせてないだけですかね…?」

青葉「でもあの子、この前、練度の遥かに劣る第六駆逐艦隊相手に、演習で負けてましたよ?」

大和「ふふふ…。もう少しあの子をよく観察すれば、青葉さんも分かると思いますよ」

青葉「…えぇ…」

372 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:07:54ID: KuS6oNOe0


Q.吹雪さんってこの鎮守府最強なんですか?

吹雪「んなわけないじゃないですか」

青葉「デスヨネー」

374 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:09:31ID: KuS6oNOe0


木曾「…見えた…ッ陸だ…」

艦装が煙を吐き、背中を熱が焼く。
ズブズブと足が沈み、もう膝くらいまで足が水面に水没している。

木曾「ッお前ら!!もう少しで陸だ!!もう少しだ!!?」

五月雨「ッ…もう…少し…!!」

村雨「…」

白露「…」

涼風「…」

遠征の帰り道。
楽しいおしゃべりに包まれていた艦隊から、突然笑いが消えた。
全員が頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。

木曾(くそッ…!!?くそったれ!!!)

泣きだす村雨。
提督への謝罪をうわ言のように言う白露。
呆然と動けなくなった涼風。
頭から水面に転んで突っ込んだ五月雨。

そして。
近づく敵艦隊に呆然として気付かないマヌケな俺。

木曾(ッ俺が守らなきゃいけなかったんだ!!?俺がまとめなきゃいけなかったんだ!!?…くそ!!くそ!!?)

反撃なんて出来なかった。
敵からの魚雷や集中砲撃を浴び、一目散に全員で逃げた。

結果がこのザマだ。

自分が肩で担ぐ、白露と村雨は意識がなく、五月雨が担ぐ涼風も意識がない。

意識を失っている三人は、皆出血が激しく艦装も破壊されている。

かろうじて意識を保っている自分と五月雨も、大破、炎上中だ。

376 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:11:19ID: KuS6oNOe0


五月雨「木曾…さん…」

木曾「ッ五月雨!!?」

五月雨の足元からブクブクと気泡が立ち上り、足がどんどん海へと沈んでいく。

木曾「ッだめだ五月雨!!??頑張れ!!!!後少しで陸なんだ!!!後少しなんだよ!!!!」

五月雨「…木曾さん、先行してください…。わたしと同じペースだと、木曾さんまで沈んでしまいます…。…大丈夫です、五月雨は、沈みませんから…」

木曾「ッ!!涼風を貸せ!!俺の空いてる背中に乗せろ!!!」

木曾は背中の炎上する艦装を海に捨て、背中を向ける。

五月雨「…ッ木曾…さん…」

木曾「早く!!!!」

背中に重みが加わった。

木曾(ッガ!!?…キツイ…!!?)

なんとかギリギリで踏ん張り持ちこたえる。
涼風の重みがなくなった五月雨の浸水は、なんとか止まった。

木曾「…ふぅ…ッはぁ…!!!」

運ぶ。
俺が沈んでも、絶対にこいつらだけは陸に送り届ける。

木曾「ッ絶対に沈ませない…!!沈ませてたまるもんかよ?!!」

旗艦の俺に向かって放たれた魚雷。

無視すれば良かったんだ。
そしたらこいつらは、無傷で逃げ切ることができたんだ。
なのに。

三人は身を挺してこんな俺を庇った。

木曾(ッ…)

沈む三人の手を五月雨と掴み、引き上げ、弾幕の雨の中を必死に逃げて。

ようやっと…!!
陸が見えてきたのに…!!!!

木曾「…は…」

現れる。

黒い艦隊。

前方に立ちふさがるように。

海の底から水しぶきを上げて。

378 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:12:34ID: KuS6oNOe0


五月雨「…木曾さん、先に行ってください」

五月雨が砲を構える。
砲身は曲がり、煙を吐き、五月雨自身も頭から血を流している。

五月雨「…私が食い止めます」

木曾「馬鹿野郎!!無茶な真似はやめろ!!!逃げるぞ!!!一緒に逃げるんだ!!!五月雨!!!」

五月雨「…木曾さん。…私達、落ちこぼれ艦隊って言われてたの知ってましたか…?」

五月雨。
涼風。
白露。
村雨。

各艦隊からあぶれた落ちこぼれで構成された、落ちこぼれ艦隊。

戦果なんて上げたこともなく、実績も何も残しておらず、無数の失敗と敗北の山だけが積み重なっていくろくでなし艦隊。

毎日が辛かった。
他人の目線が怖かった。
いじめられたし、いつも笑われ者だった。

そんな私達の前に現れたのが木曾だった。

379 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:14:02ID: KuS6oNOe0


五月雨「…覚えていますか?」

木曾は。ヒーローだった。

いつも私達を助けてくれた。
いじめられてる私達を助け、私達を笑う相手に拳を握りしめ、私達が敵に襲われてピンチの時は、いつも前線に立って私達を守ってくれた。

木曾は。いつだって。私達のヒーローだった。

木曾が私達の艦隊の旗艦になってから。
毎日が楽しかった。
他人の目線が怖くなくなった。
実績も増えて、私達を笑う人はどんどん少なくなっていた。

みんな木曾が大好きだった。
面と向かっては恥ずかしくて言えなかったけど。
みんな。
この恩を返したいと思っていた。

だから飛び出した。

木曾を守るために。
大好きな人を守るために。
みんな。

382 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:14:58ID: KuS6oNOe0


五月雨「…木曾さん、生きてください。私達の事は気にせず」

木曾「ッ見捨てられるはずがないだろお!!!!お前らのことを!!!!!」

五月雨「…ずっと疑問だったんです。…どうして私は艦娘になったのだろうって…。運動もできないし、頭も悪いし、ドジばかりだし。どうして、私は艦娘に生まれ変わったんだろうって…」

五月雨「…答えが今、分かりました」

五月雨「きっと私は」

五月雨「今この瞬間」

五月雨「大好きなみんなを守りきるために…!!!!」

五月雨「ッ艦娘として生まれ変わったんだって!!!」

木曾「ッーーーーーーー!!?」

五月雨「かかってきなさい深海棲艦!!!!たとえこの体張り裂けようとも!!!!ッ私の大好きな友達には指一本触れさせません!!!!」

五月雨は。
一人。
深海棲艦の艦隊に突撃していく。

木曾「ッちくしょお…!!?…ちくしょお…!!!??」

三人を背負う木曾は戦えない。
黙って逃げることしか出来ない。
守ってもらうことしか出来ない。
自分は。
なんて。
無力なんだ。

384 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:15:52ID: KuS6oNOe0


木曾(助けて…)

木曾(ッ誰か助けてくれよ…!!!!?)

顔は涙でぐしゃぐしゃで。
近くの陸があんなに遠くに見えて。

五月雨「ああああああ!!!」

孤軍奮闘する五月雨が見えて。

木曾(誰でもいいから!!??…誰でもいいから!!??)

木曾(俺のことは構わないから!!!?だから頼む頼むよ!!!??)

木曾(この四人だけでも助けてくれ!!!??)

叶うはずのない夢に。
来るはずのない助けを呼ぶ。

五月雨「ッがっ!?まだ…まだあ!!!」

燃える五月雨。
群がる深海棲艦。

木曾の足はズブズブと海に沈んでいき。

それでも陸へと足を進める。

砲弾が木曾をかすめ飛来する。

敵の目がこちらを向いた。

それはつまり。

五月雨の敗北を意味した。

木曾「…あぁ…誰か…」

木曾「ッ俺たちを助けてくれえええ!!??」

386 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:17:14ID: KuS6oNOe0


沈む。
両足から力が抜け。
真っ暗な海に飲み込まれる。

途端。


木曾の手は掴まれ、引き上げられる。


木曾「…え?」

「よく頑張ったわね、木曾」

突然。

深海棲艦の群れの真ん中で爆発が起きる。

「ナイスファイトでしたよ、五月雨」

来るはずのない助けが。

来た。

389 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:18:59ID: KuS6oNOe0


木曾「大井姉…」

大井「…」

五月雨「…ッ不知火さん…」

不知火「…」

大井は木曾の前に進み出て。

不知火は白い手袋を締め直す。

大井「…ッ私の妹が…世話になったみたいね…」

不知火「ッ久々に、ブチ切れました」

木曾の体はボロボロで。
それでも白露、村雨、涼風の三人を背負い。

五月雨の体はボロボロで。
それでも、四人を守るためにその身を削って戦った。

みんな、大好きな人を守るために。傷ついた。

大井「…木曾、下がってなさい」

不知火「…五月雨、もう少しだけ我慢しててください」

…二人の目はかつてないほどの怒りに燃え深海棲艦を睨みつける。
その殺意だけで深海棲艦の艦隊は恐怖に隊列を乱す。

大井改二「私の大切な妹に泥つけて、テメェラ全員、覚悟は出来てんだろおおおなぁ!!???」

不知火改「私の友達を傷つけたことを!!!!!あの世で後悔しなさい!!!!!」

ブチ切れた、二人の最強。
始まったのは戦闘ではない。

一方的な殺戮だ。

390 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:20:56ID: KuS6oNOe0


ー 数刻前 ー

揺れる機内。
鼓膜を打つレシプロ音。
窓の外には青い空。
目下に広がる白い雲。

呉明石「どうですか!大型輸送レシプロ機、明石3号の乗り心地は!?」

大井「これ大丈夫なのですよね!?落ちたりしませんよね!!?」

不知火「見てください大井さん!呉鎮守府があんなに小さく見えます!!」

大井「嫌です!?外なんて見たくありません!!だいたい3号とかいうのが不吉すぎます!!1号と2号はどうしたんですか!!」

呉明石「…残念ながら、海の藻屑に…」

大井「いやあああ!!?助けて北上さん!!?」

呉明石「大丈夫ですよ!海洋上ではなく、今回みたいに本土の上を飛ぶ分には、撃墜される心配はありません」

不知火「見てください大井さん!!鳥と並行して飛んでますよ!!」

騒ぐ三人。
格納庫のような狭い空間に座る三人はレシプロの音に負けないよう大声で会話する。

392 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:21:55ID: KuS6oNOe0


呉明石「まぁ兎にも角にも、これを使えば海洋では半島ぐるっと回って1日かかる道のりも、あっという間にあなた達を、辺境鎮守府まで連れて行ってあげることが出来ます!!」

不知火「…すみません!何から何までやってもらって…!」

呉明石「いえいえ、同じこの国を守る仲間ですから!!助けるのは当たり前です!!」

大井「高い!!怖い!?」

不知火「大井さん…乗る前はあんなにはしゃいでたのに…」

ガタガタ外をチラ見しては震える大井の背中を、不知火はそっと撫でてなだめる。

大井(くっ!?これが吊り橋効果というやつですか!?北上さんというものがありながら、一瞬不知火にキュンとしてしまうとわ!!…大井一生の不覚です…!!!)

不知火「…それで明石さん!…私達に話したい話って何ですか??」

呉明石「いや、あまり確証を持って言えないから話していいか分からないんだけど…」

不知火「構いません!お願いします!!」

不知火の言葉に、呉明石はしばし悩み、やがてポツリポツリと語りだす。

394 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:23:00ID: KuS6oNOe0


呉明石「…そのスイッチを作ってて思ったんだけどね、そっちの明石は本当に提督に好かれるのが目的で作ったのかなって…」

不知火「…えっと、どういうことですか?」

呉明石「…簡単な話ね。提督を独占したいなら、提督が自分のことを好きになるスイッチを作ったほうが手っ取り早いでしょ?」

不知火「…そ…そんなもの作れるんですか?」

呉明石「…まぁその気になれば…?」

明石の言葉に戦慄する不知火に気づかず、明石は語る。

呉明石「私たちは効率を重視する。…なのに、そっちの明石はわざわざ、そんな遠回りでまどろっこしい方法を使って、しかも、他の艦娘に暴力を振るわれてる提督を半ば放置してる傾向すらある」

呉明石「思ったんだけどね、そっちの明石の本当の目的は、提督を独占することではなくて、提督と艦娘の間の絆を破壊することなんじゃないかなって…」

不知火「…でも!そんなことしてどうするんですか!!そんなことをしても、敵に、深海棲艦に塩を送るようなものじゃ…!??」

呉明石「…気づきましたか?」

不知火「…そんな、まさか…」

大井「」チーン

呉明石「…もし、そちらの明石が、深海棲艦のスパイだとしたら」

呉明石「全部説明できると思いませんか?」

不知火「…ッ!!??」

呉明石「以前から大本営でも噂にはなってました。まるでこちらの作戦が読まれたかのように現れる深海棲艦。…密告者がいるとしか思えないと…」

不知火「私たちの…明石さんが…」

呉明石「確証はありません…。ですが、可能性の一つとして視野に入れといて損はないかと…。こういう時は様々な可能性を考慮して行動するのが1番ですから」

明石の言葉に不知火はおし黙る。
考えてもみなかった。
そのような可能性は…。

396 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:24:02ID: KuS6oNOe0


しばし三人は言葉なく機体に揺すられる。

…沈黙を破ったのは大井だった。

大井「…ん?」

丸窓の外。
見える海岸線と、空と海の境界。

その沖の先から煙が上がってる。

大井「…し、不知火さん、あれ」

不知火「?」

大井の指を指す方向を不知火も仰ぎ見る。
海洋からここからでも視認できる黒い煙が上がっていた。

不知火「!?…明石さん!!」

呉明石「ッいま把握したわ!!妖精さん!!敵影は!?」

機内無線に向かって話すも、明石は肩を落とす。

呉明石「…ダメね。この機体に積んでる索敵レーダーは試作品でそんなにいいものじゃないの…。あの距離だと何が起こってるのか全く分からないわ…」

しかし、煙の上がるあの場所は、よく辺境鎮守府の艦娘が遠征などで通過する海域だ。

辺境鎮守府までの距離も残りわずか。

不知火に不安がよぎる。

呉明石「近くに思い切っていく方法もあるけど…。この機体、武装してないから、攻撃されたらいっかんのおしまいよ…。旋回が遅いから回避もできないし…」

大井「…だそうですわ不知火さん…気になりますが、諦めましょう…」

不知火「…いえ、もし仲間であったなら、私は後に死ぬほど後悔します」

不知火「…もう後悔はしたくないんです!!」

呉明石「…」

不知火は立ち上がり、格納庫の隅に積んである己の艦装を取り出す。

呉明石「…行くのかな?」

不知火「ここまで送って頂いてありがとうございました明石さん。…ここまでくれば、海路でもすぐに鎮守府まで帰ることができます」

呉明石「うん、そうね」

大井「…え?…え?…不知火さん、そんなもの付けてどうするのですか?…この辺に飛行場はありませんから着陸できませんよ…?」

不知火「…?あぁ!大井さん、気絶してたから聞いてなかったんですね」

不知火はテキパキと艦装をつけ終えた後、大井の見慣れぬベストを羽織る。

不知火「この機体から降りる方法」

大井「…ま…さか…」

不知火「…これだけ大きな機体になると、大きな滑走路がいるそうで、普通に降りようにも、呉鎮守府みたいな大きな滑走路を持つところじゃないと着陸できないそうです」

大井「…ま…さか…」

不知火「なので」

不知火「飛び降ります」

399 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:24:53ID: KuS6oNOe0


大井「」

不知火「あっ、当然パラシュートは使いますよ?」

大井「嫌です!?絶対嫌です!?死んでしまいます!!!!」

呉明石「はい、大井さんの分のパラシュート」

大井「いやあああ!!?」

大井は虚しく抵抗するも、あっという間に明石に出撃準備を完了させられてしまう。

呉明石「高度を下げた後、ハッチを開けるわ!!そしたらそこから飛び降りて!!降下中にベストのボタンを押せばパラシュートが開く(はず)だから!!」

不知火「本当に何から何までありがとうございました明石さん!!!このご恩は絶対に返します!!!」

大井「今小声で聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするのですけど!!??」

呉明石「陸に着陸したら、そのまま徒歩で海に向かってください!。本当は海に直接下ろしてあげたいのですけど…さすがに敵機が怖いので!!!」

不知火「お心遣い感謝します!!!」

ゴンゴンゴンゴンという音と共に、ハッチが開く。
途端暴風のような風が機内に吹き荒れた。

呉明石「それでは気をつけて!!?健闘を祈ってます!!!」

不知火「ありがとうございました!!!失礼します!!!また会いましょう!!!」

大井「まって不知火!!?押さないで!!?まだ心の準備とかいろいろ出来てな…高い!?雲が下に見えるんだけど…!!!?!!どこが高度を落としてるのよ!!??」

不知火「よいしょ」手繋ぎ

大井「あッ」キュン

不知火「とう!」ピョン

大井「しまっ!!?いやああああああ!!??」

笑顔で手を振り見送る呉明石。
二人の影はみるみる小さくなり、二つのパラシュートが同時に花開いた。

402 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:27:58ID: KuS6oNOe0


ー 辺境鎮守府 司令室 ー

提督「響、もう一度すまないが状況を教えてくれ」

響「ハラショー。雷いわく敵の大艦隊がこの鎮守府に向かってきてるらしいね。見たことないレベルだそうだよ」

提督「…分かるのはそこまでだよな…。その大艦隊とやらの構成も何も分からない…」

響「正規空母の四人はどこかへ行っちゃったし、戦艦の四人も清霜いわく…」

提督「雪風を沈めてしまって海域だろう?…それぐらい予測はつく。…正規空母四人が向かった場所も、だいたいは見当がつく」

響「…これは驚いた、さすが提督だね」

提督「この職業のイイところは、頭と右腕さえ動けばできるということさ…。さて…扶桑、山城」

扶桑「はい」

山城「…なんでしょう?」

提督「…動けそうな艦娘に声をかけて司令室に連れてきてくれ…」

山城「…放送をかけちゃえばいいのでは…?」

提督「いや、暁や雷みたいに自暴自棄になって特攻攻撃し始める奴もいる。…なるべく厳選した部隊じゃないとまともに指示も通らないだろう」

扶桑「…提督は?」

提督「私は川内やみんなを探す…。あまり人目につかないようにしてな。今私が他の艦娘に会えば、皆パニックに陥りかねない」

響「私はどうすればいいかな?」

提督「扶桑と山城についていってもいいし、俺についてきてもいい、雷と島風を迎えにいってもいいぞ」

響「ハラショー。じゃあ司令官について行こうかな」

提督「…さぁ、行動開始だ…!」

406 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:30:26ID: KuS6oNOe0


何かを探していた。
誰かを探していた。
見つけられないものを見つけようとしていた。
でもそれはどこにもなくて。
海の底にも海の上にもなくて。
なにを探していたかも、なにを求めていたのかも分からなくなって。
胸に空いた空虚な穴だけがどんどん広がって。
毎日が退屈で。
つまらなくて。
なにも期待してなかったいつもの今日。
暗雲の下の陸の見えない沖の真ん中で。

私が探していたものが。

ようやっと見つかった。

408 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:31:28ID: KuS6oNOe0


吹雪「ッーーーーーーーー!!!」

瞬く。
瞬間、戦艦ル級3隻が絶叫を上げながら轟沈する。
己より遥か格上であるはずの相手を。
羽虫を払うが如く薙ぎ払う。

吹雪「ッ!!」

瞬く。
仇を取ろうと、一斉に砲を開く深海棲艦。
殺到する弾丸はしかし、虚しく空を切る。
そこに敵の姿はない。

ヲ級「ッ!!?」

瞬く。
まるで瞬間移動。
ヲ級は叫ぶ間もなく海へと消える。

409 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:32:00ID: KuS6oNOe0


吹雪「ー」

目が合う。
獰猛な光を宿した夜の闇さえ貫く眼光。

そうだ。
私が探していたのはこの目だ。

私が探していたのはこいつだ。

ようやっと。

出会えた。


防空棲姫「ミツケタゾ…ワタシガ探シテイタモノ…!!!!」


私が、全力を出せる、敵。

410 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:32:37ID: KuS6oNOe0


蹂躙される黒い大艦隊。
敵の駆逐艦は実体のない霞のように、現れては消える。
殺到する砲弾はカスることすらなく、敵の放つ砲弾は一撃必殺。

混乱が艦隊全体に広がるのは一瞬だった。
ヤケになったものから、焦った者から、吹雪に砲を向けた者から、次々と海へ沈んでいく。

迂闊に砲を向けれない、大艦隊のど真ん中。
同士討ちも恐ろしい。

陣形が瓦解するまでそれほど長くはかからなかった。

周囲を取り囲んで絶対優勢にあるはずの深海棲艦は、しかし時間がたつほど追い詰められていく。

411 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:33:19ID: KuS6oNOe0


防空棲姫「フフフ…」

他のものには何が起こってるかすらはあくできていないだろう。

だが私には見える。

瞬くように見えるあの動きは、独自の走行方法によるものだ。
その場での急旋回や反転など、不規則な弧を描くような走行方法により私たちの視線をそらし、それに加えて相手の死角に潜り込む状況把握能力により、あたかもその場から消えたように見せかけている。

…通常、正面にしか進めないはずの艦の反転や急旋回。…いったいどれだけの鍛錬を積めば、あのような動きが可能になるのだろうか…。

そして、格上すら葬る砲撃の謎。

彼女の握る単装砲は別段特別なものではない。
…なら、どうしてあのような結果が出るのか…。
味方はほとんど気付いてないだろう。
だが私には分かる。

彼女は、彼女に向けられた砲身の中に弾丸を撃ち込んでいる。

恐るべき命中力と技術力。

小さな弾丸だからこそできる神業。

砲塔の中に撃ち込まれた弾丸は内部で誘爆を起こし、どんな格上の相手でも一撃で轟沈させる。

相手が強ければ強いほど。
火薬を搭載してる量が多ければ多いほど。
誘爆の威力は増す。

ヲ級の帽子が艦載機を放とうと口を開ける。
だが無駄だ。
口を開けた瞬間、口の中に弾丸を撃ち込まれ、頭部丸ごと爆発し轟沈する。

412 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:34:32ID: KuS6oNOe0


防空棲姫「…ククク…」

思わず笑いが溢れる。
仲間が倒され憎いはずなのに。
私の心は、仲間が倒されるたびに歓喜に打ち震える。

やっぱりこいつだ。
私が探していたもの。
私の空虚な心の穴を埋めてくれるもの。
私に生を与えてくれるもの。

防空棲姫「オマエラ…ゼンインサガレ…!!ワタシガヤル!!!」

私の言葉に驚愕し、慌てて吹雪から離れる黒い艦隊。

吹雪「ッ」

防空棲姫「ワタシハ、コノ大艦隊ノ旗艦。防空棲姫」

異例。
異例中の異例。

深海棲艦が敵に名乗りを挙げるなど。

防空棲姫「キサマノ強サニ、敵ナガラ敬意ヲ表シ、キサマニ、一対一ノ決闘ヲモウシコム!!!」

吹雪「ッ!?」

周りの深海棲艦『ッ!!!???』

深海提督『ッおい!!お前ら何をしている!!まだ鎮守府には到着しないのか!!!』

防空棲姫「ダマレ」

無線から響く深海提督の怒号を無視した挙句、防空棲姫は無線を握りつぶす。

防空棲姫「キサマノ小癪ナ策デ、ドウコウデキルレベルノ相手デハナイ」

防空棲姫「他ノ者ドモモ、決シテ手ヲ出スナヨ…。イタズラニ命ヲチラスコトニ、ナルダケダ…」

進みでる防空棲姫。
黙って単装砲を向け、迎え撃つ体制の吹雪。

そして二人を囲む深海棲艦の大艦隊。

即席で作られたリングは、何物たりとも侵入は許されない。
侵入したら最後、決して生きて外に出ることは出来ないだろう。

そう見ている者に感じさせるほどの…

防空棲姫「……」

吹雪「……」

激しい殺気と殺気のぶつかり合い。

414 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:35:27ID: KuS6oNOe0


吹雪(…強い…)

吹雪もさとる。
目の前の深海棲艦の強さを。
今まで見てきたどんなものよりも、この敵大艦隊のどんなものよりも、こいつは、強い。

吹雪(…ッ…)

一対一のこの状況は願っても無い好機だ。
こんな奴と多対一などごめんだし、なによりこいつはこの艦隊の旗艦だ。
沈めれば相手の士気を大きく下げることができる。

心配ごとがあるとすれば、一対一を演じてる間に、他の深海棲艦が鎮守府に向かってしまうことだ。
さすがにこの敵相手に、そこまで防ぐ余裕は出てこないだろう。
しかし。

吹雪(今ある最終防衛ラインを後ろに下げることになるけど、それでも、この機を逃すわけにはいかない…)

決断する吹雪。
ゆっくりとその場に腰を落とす。

防空棲姫は不敵に笑う。

静まり返る海。
一瞬の風が海水を巻き上げたのを合図に。

二人は同時に行動を開始した。

415 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:36:21ID: KuS6oNOe0


吹雪「ッ!!」

先手は吹雪。
まっすぐに防空棲姫に向かい、相手の砲撃を誘う。

防空棲姫「ノルトオモウカ?」

しかし防空棲姫の放ったのは砲撃ではなく雷撃だった。
無数の雷撃が線を描き、吹雪に殺到する…!!

吹雪(私の戦い方がバレてる…!!)

着弾。
身の丈の5倍ほどある水柱が上がり、轟音が響く。
しかし、視界の開けたその先に吹雪の姿はない。

防空棲姫(己に着弾する直前に、単装砲で魚雷を狙い撃ち相殺したか…!しかもそれを目くらましに使うとは…!!)

背後より殺気。
防空棲姫の背中に吹雪の砲弾が着弾する。

吹雪「ッ!?」

そこで背後に陣取る吹雪は気付く。
己の足元に向かってまっすぐ伸びる敵の雷撃の軌跡。

吹雪(ッ背後に回ることが読まれてた!?)

横に転がるように回避。
このタイミングで防空棲姫は振り向き、主砲を構える。

吹雪「ッ」

防空棲姫(その体勢ではこちらに砲を向けることすらできないだろう…!!)

防空棲姫「全主砲ナギハラエ!!!」

放たれる弾丸。
横に飛び込むようにこれを必死に回避する吹雪。

そして。

417 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:37:19ID: KuS6oNOe0


防空棲姫は咄嗟に左の主砲を切り離した。
切り離された主砲は次の瞬間、誘爆。
凄まじい爆発を起こす。
熱波がチリチリと防空棲姫の肌を焼いた。

防空棲姫(ッバカな!!?信じられない!!?あんな体勢からこちらの砲塔の中に弾丸を打ち込みやがった…!!!)

吹雪(ッ判断が早い…!ッ今までの戦い方では通用しない…!!)

防空棲姫(楽観的な思考は切り捨てた方がいい。こいつは常識を超えてくる)

吹雪(それなら…!!)

にらみ合う二人。
再び激突する。

418 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:38:05ID: KuS6oNOe0


今度は先に仕掛けたのは防空棲姫。
あろうことか、吹雪に砲を向け、弾丸を放つ。

咄嗟に相手の砲を狙う吹雪。
しかし気付く。
相手が狙っているのは自分ではない。
自分の足元の海面だ。

吹雪(ッ!?)

吹雪の戦い方はその性質上、自分に向かって相手の砲が向いてないと使えない。
ゆえに足元の海面などを狙われると、相手の砲を射抜くことができない。

吹雪(ッ回避!!)

転がるように回避。
普通は足元の海面を狙われても、ここまで大げさに回避する必要はない。
だが相手が相手だ。
敵の砲弾の威力は、あの大和さんに匹敵する。
かするだけでも致命傷は避けられないだろう。

狙われ続ける足元。

吹雪は飛び込むように回避を続ける。
継ぎ目のない砲撃の嵐で、反撃する隙を与えない。

吹雪(ッ誘い込まれた!!?)

再び回避して気付く。
己が飛び込もうとした先の海面に伸びる雷撃の軌跡。
敵は吹雪を狙っていたのではない。
ここの海域に誘い込もうとしていたのだ。

大きな水柱が上がる。
爆発音。

419 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:38:49ID: KuS6oNOe0


しかし防空棲姫は緊張の糸を切らない。
普通なら今の雷撃を避けることは不可能だろう。
だがしかし、奴なら避けるという自信があった。

視線を走らせ、敵の影を探す。

防空棲姫(右、左、背後、上空?…どこだ、どこに消えた!!)

ガチンと。

己の主砲に金属がぶつかる音がした。

防空棲姫「ナッ!?」

己の真下。
海面から上半身だけだし、己の主砲の砲塔に単装砲の砲塔を差し込んでいる吹雪。

防空棲姫(ッ!!?こいつ潜水して移動したのか!!??)

まさかの奇襲。

しかし、防空棲姫は動かない。

421 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:39:54ID: KuS6oNOe0


防空棲姫(ッこの距離だ!!誘爆を起こせば、自分も被害を受ける!!私なら誘爆を起こされても一撃なら耐えれる!!…敵の狙いは誘爆ではないぞ…!!)

吹雪(ッ読まれたかな!?)

差し込む右手の単装砲と逆の左の手で、何かを放る吹雪。

防空棲姫(ッナンダ?コレハ?)

それは防空棲姫の初めて見るものだった。
マルユやあきつ丸ならそれをこういうだろう。

閃光手榴弾と。

途端、強烈な閃光が瞬き、爆音が響く。

さらに続けて爆音が響き、あたりの海面が膨らむように爆発した。

424 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:41:43ID: KuS6oNOe0


防空棲姫「ッハァ…ハァ…」

吹雪「ッ…ッ…」

一瞬の攻防。

閃光が放たれた瞬間。
吹雪は単装砲を引き抜き、敵の目を狙った。

しかし、防空棲姫、咄嗟に敵のこの行動を読み切る。
視界が見えないまま直感で頭を振り、吹雪の単装砲から放たれた弾丸を回避。
そのまま己の足元に向かって魚雷を叩きつけた。
己を巻き込む爆発。

吹雪は咄嗟に回避したようだが、さすがに避けきれず小破。
爆発に飲まれた防空棲姫も小破した。

吹雪「…ッつよい…」

防空棲姫「ッ…お前もな…」

すると、防空棲姫はなんと艦装を切り離す。
主砲をすべて捨て、一本の槍だけを虚空から取り出した。

吹雪「ッな!?なにそれ!!??」

防空棲姫「ナニ、驚クコトデハナイ…。ソッチニモ、カタナヤラ、ナギナタデ闘ウ娘ガイルダロウ?」

防空棲姫(こいつを倒すのには同じ土俵で戦ってはダメだ。近接戦に持ち込み、こいつの得意な砲撃をさせない。ステータスの高さで強引にねじ伏せる…!!)

吹雪(ッ近接戦!?近づかれる前に…!!!)

単装砲を構える吹雪。
防空棲姫は一瞬、身をかがめ。

ー 飛んだ ー

吹雪「ッー!!?」

間合いは一瞬で詰められ、突き出される槍をギリギリで避ける。
左腕を浅く槍が裂く。

425 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:43:17ID: KuS6oNOe0


防空棲姫「重カッタンダ、アノ主砲。コレデヨウヤット身軽ニナッタ」

吹雪(この機動力!?雪風ちゃんや島風ちゃんを超えてる…!!?)

防空棲姫「オマエモ、ハヤクホンキヲ出セヨ」

吹雪「ッー」

ーやるしかないー

吹雪改ニ「ッ!!!」

防空棲姫「オオ!!ハヤイハヤイ!!今マデトハ段違イジャナイカ!!」

距離をとる。
最後まで取っておきたかったが、出し惜しみはしてられない。
目線を左右に移動させる。

自分達を取り囲む深海棲艦の数はまばらになっていた。
大部分の深海棲艦は鎮守府に向かって進撃していったに違いない。
…防衛戦はとっくに割られていることだろう。

防空棲姫「ホラ、ハヤクカカッテコイ。コレ以上、時間ヲ掛ケテイイノカ?」

吹雪改ニ「ッああああ!!!」

駆ける。
こいつだけはここで倒す。
こいつだけは先へは行かせない。
我が人生すべてをかけて。

敵を討つ…!!!

426 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:44:15ID: KuS6oNOe0


深海提督『…明石、あいつはなんだ』

明石「吹雪ちゃんだよ。驚いた?」

深海提督『どうしてあんな奴がいることを教えなかった!!?…こちらの被害は甚大だぞ!!…主力の戦艦は軒並み潰されたし、あの防空棲姫も足止めを食らってる!!』

明石「言ったところであなたは信じた?駆逐艦だけど戦艦倒しちゃう子がいるって」

深海提督『…それは…』

明石「むしろこれは好機よ。主力の戦艦、正規空母、そして吹雪、これら三つ全部クリア出来たんだから、あとは攻め込むだけでしょ?」

深海提督『…そちらの作戦が分かり次第教えろ。不穏な動きは事前に潰せ』

明石「はいはーい、まったく、おお怖い怖い…」

429 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:45:15ID: KuS6oNOe0


司令室に待機する艦娘たち。

扶桑「…では、提督が帰ってくるまでここで待っていてください」

山城「…ダメです扶桑姉様、思ったより動けそうな人が全然いないです…」

扶桑「諦めてはダメよ山城。私たちは提督の言われたことを忠実に行えばいいの。きっとなんとかしてくれるから」

扶桑が一例して部屋を出る。

球磨「…」

多摩「…」

那智「…」

那珂「…」

霧島「…」

比叡「…」

球磨「…これはなんの集まりクマ?」

多摩「…知らないニャー」

那珂「な…那珂ちゃんのライブかな!?…提督が私の歌を聴きたくなって…!!」

霧島「その可能性は0パーセントです」

比叡「…」

那智「…」

沈黙する六人。
比較的怪我も浅く、冷静な判断が出来そうだと選ばれた六人。
だが、とうの六人はそんな理由で選別されたことを知らない。

430 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:46:05ID: KuS6oNOe0


那智「」ブツブツブツブツ…

比叡「」ヒエエエエ…

霧島「那智さん、何をブツブツ言ってらっしゃるのですか?」

那智「ッこの後、提督に会うんだぞ!!??…ッどういう顔で、どんなセリフで向き合えばいいって言うんだ!!??」

球磨「ッ那智、落ち着く球磨…」

那智「!…すまん…私としたことが…つい声を張り上げてしまって…」

那珂「いやでも凄いよ…。ここにいるみんなは、冷静で。…私なんて、気づいたら手首切ってたし…」

多摩「…なるほどニャー。確かに集められた面子を見ると、そこまで壊れてない奴ばかり選ばれてる感じだニャー」

霧島「…つまり…」

球磨「…このあと、戦闘があるのかもしれないクマね。まともに戦えそうな艦娘なんて、今この鎮守府には一握りしかいないクマ」

比叡「…でもそんな急な…。それほど大変な海域…いや、も、もしかして鎮守府に敵が向かってきてる…とか」

球磨「ありえない話じゃないクマ。今回のこの騒動、深海棲艦が仕掛けてきたものと考えて間違いないクマ」

那智「おのれ…おのれ深海棲艦…!!!」

そのタイミングで。
司令室の扉がノックされる。

432 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:47:14ID: KuS6oNOe0


??「あのー、入ってもよろしいでしょうか?」

球磨「大丈夫クマ、まだ提督は来てないクマ」ガチャッ

青葉「どもども、青葉です。…皆さんおそろいで?」

多摩「胡散臭いのが来たニャー」

青葉「なっ!?し…失礼な!!」

伊勢「私たちもいるわよ」

日向「扶桑と山城に声をかけられてな…」

霧島「伊勢さん、日向さん」

那智「これで9人か」

青葉「まっま、とりあえず中に入っちゃいましょうよ!!…話はそれからです!!」

青葉に手を引かれるように、伊勢と日向は中に入る。

那珂「この二人も呼ばれたってことは、やっぱり戦いがあるのかな…?」

比叡「…そ…そだ!私、お茶淹れますね!…あれ、司令室に茶葉がない…」

霧島「…茶葉なら食堂にあると思うけど…」

比叡「とっ、とってきます!」ヒエエエエッ

青葉「あっちょっ!!?」

緊張に耐え切れずか飛び出していく比叡。
青葉はその後ろ姿に小さく舌打ちする。

433 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:48:12ID: KuS6oNOe0


青葉(…まぁ。これ以上待って提督が来ちゃうのもマズイし、数少ない動ける艦娘のこれだけの人数潰せればノルマクリアでしょ…)

球磨「青葉、どうかしたクマ?」

青葉「いえ、ここにいる皆さんはノンキだなと思って」

那智「…どういう意味だ…?」

青葉「…忘れたんですかね?…そんなまさか那智さんともあろう人が…。私達が」

青葉「ー 司令官に何をしたのか ー」

436 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:49:14ID: KuS6oNOe0


扶桑「よし、これで司令官の言っていた目標の9人達成だわ」

山城「清霜さん、こっちです」

清霜「…うん」

扶桑「これで、私と山城、響ちゃんを合わせて12人。戦える人数は揃ったわ」

山城「はい、扶桑姉様!…島風ちゃんが帰って来ればさらにもう一人増えますし…」

戦艦二人に手を引かれ、司令室の前に立つ清霜。

山城は軽く司令室の扉を二回ノックし、扉を開ける。

山城「失礼しま…え」

扶桑「どうしたの山城…?…ッ!!?」

司令室の中。
声をかけていた、冷静な『8人』

その8人が…

那智「」ギィーコ…ギィーコ…

那珂「やっぱり死ぬべきなんだあああああ!!??私なんて、死ぬべきなんだよおおおおおおおお!!??」

多摩「…ッ…ッ…」

球磨「安心しろクマ。お前を殺してすぐに姉ちゃんも後を追うクマ」

霧島「みんな、裁かれなくてはいけません…。誰かが、やらないと、いけないんです…。罰を与える人間が必要なんです…」

日向「…ッきり…しま…」ゴフッ

伊勢「日向!!??おのれ霧島ああああ!!??」

比叡「」ヒエエエエッ

扶桑「一体何が…!!??」

比叡「わからないんですよ!!?お茶の葉を取って帰ってきたら、青葉さんはいないし、みんなは発狂してるし!!??」

山城「…青葉!?」

扶桑「私達、青葉さんなんてここに呼んでないわよ!!???」

比叡「とにかくみんな引き止めるの手伝ってくださいいいいいい!!!…殺し合いが始まっちゃいますうううううう!!!?」

扶桑「…山城!」

山城「はいっ、扶桑姉様!」

清霜「わ、私も!!」

442 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:58:01ID: KuS6oNOe0


青葉「はいっ、というわけで!!不安の種はキチンと潰しておきましたよ!!」

にこやかに、青葉は海の見える港の船着場で電話相手に愉快そうに話す。

青葉「ちょっと傷口をえぐっただけで、みんな簡単に壊れちゃいました。…あの人たちは、一見冷静に見えますけど、内実、虚勢を張るので一杯一杯でしたからねぇ…。緊張の糸を切ったら一瞬でしたよ」

明石『よくやったわ。…で、結論は?』

青葉「…うちの提督は凄いですねぇ。あんなけのことされておきながら、まだ艦娘を信じるんですよ??ほんっとありえません」

明石『…』

443 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:58:36ID: KuS6oNOe0


青葉「とりあえず潰しておきましたが…。あの提督がしっかりしている限り、不安の種は何度も生まれるでしょう。それほど、ここの提督と艦娘の間の信頼は強い。…まぁ知ってると思いますが?」

明石『そりゃ、一週間で逃げ出すと思ったあの地獄を半年も耐えたんですもの…表彰ものですよ』

青葉「とにもかくにも、提督がご存命の限り、私たちの不安の種は消えませんよ?どうするつもりですか??」

明石『放っておきなさい』

青葉「…えええ…」

445 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:59:20ID: KuS6oNOe0


明石『そうすれば、今みたいに、あの人は自力で艦娘とのよりを戻し、再び絆を作る』

青葉「なら放っておいたらダメじゃないですかあ!」

明石『人の縁は人の縁を呼ぶわ。きっとあっという間に、この鎮守府はもういちど、皆が団結して立ち上がる』

青葉「だからそれじゃダメじゃないですか!!」

明石『そうしてみんなの心が一つになったタイミングで…』

446 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 21:59:47ID: KuS6oNOe0


明石『このスイッチを押すの』

447 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 22:00:27ID: KuS6oNOe0


青葉「…え?」

明石『絆は壊れ、今度こそ艦娘は自殺の嵐。面白いものが見れるわよ』

青葉「明石さん…!!貴方って人は…!!」恍惚

明石『手出しはあえてしない、元どおりになるのを待ちなさい…。貴方の前で最高のショーを見せてあげるわ…!』

青葉「さいっこうのショー!!楽しみです!!」

448 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 22:01:19ID: KuS6oNOe0


川内「なにが楽しみなの?」

青葉「ッ!!??」

とっさにケータイを切り、後ろを振り返ると同時に押し倒され、首にクナイの切っ先を押し当てられる。

川内「ねぇ、なにが楽しみなの?」

青葉「ッ川内…さん!?」

川内「教えてよ、ねぇ」

青葉「ッイ!??」

クナイが首に5ミリほど沈む。
プツリと空いた穴から血が一滴垂れる。

青葉(ッ予想外、予想外です…!?。どうしてここに川内さんが…!!??)

川内「…不思議な話をするね…。みんな壊れてるときに、なぜか平気な艦娘が二人いたの。青葉と明石。あと、大井と不知火も…かな?。でもこの二人は違うね。この二人は違うよ」

青葉「ッなにが…違うんですか…!?」

川内「内通者じゃないっていう意味だよ」

青葉「ッ!!?」

光のない渦の蒔いたような瞳で青葉を覗き込む川内。

449 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 22:02:12ID: KuS6oNOe0


川内「甘く見るなよ私達を。どれだけ提督に嫌われても、どれだけ提督が私のことを遠ざけても、私は提督のために生きて戦って、そして死ぬ。これはどんなことがあっても変わらない」

青葉「あは…はは…」
(ッ愛が重い!!!?重すぎるよ!!?)

川内「みんながやってる無意味な贖罪なんて私はしない。今この瞬間、提督の役に立つためにすべてを捧げる」

川内「だから安心してよ、あなたを殺すと提督が悲しむから殺しはしない。…でも、殺す寸前までは追い詰めるから、早く全部ゲロって欲しいな」

青葉「ーーーッ!!?」
(マジだ!?この人、目がマジだ!!?)

青葉「ッ仕方がないです、本当は使いたくなかったけど…!!!」

青葉が助けを呼んだ。
川内は怪訝そうに顔をしかめる。
次の瞬間。
青葉に馬乗りになっていた川内は何かに突き飛ばされた。

川内「ッ!?」

逃げる青葉に追おうとする川内。
そして二人の間に割って入るように影が割り込む。

夕張「……」

川内「ハッ!?なっ!!???」

無機質な瞳。
無機質な体。
およそ生物らしさを感じさせない、見た目。

夕張がそこに現れた。

川内「うそっ!?そんな!!??」

川内「夕張は1年前に沈んだはずじゃ…!!??」

動揺する川内に、夕張が襲いかかる。

452 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 22:07:17ID: KuS6oNOe0

誤字脱字多すぎいいいい!!!

…の指摘はごもっともです!!!!

反省します!!許してください!!!靴を舐めます!!!

…あとバトルシーン書きたかったの…

いや別にいらんというのは百も承知なのですがどうでした?
躍動感あるバトルシーンって文章だと書きづらいですね…修行不足です…


あともう少し、希望の話が続きます。
狛枝提督、もう少しお待ちを!!

更新は誤字を見直すため、明日の20時にしたいと思います!!!

499 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 23:19:44ID: KuS6oNOe0


みんな僕の駄作のために争わないで!!

批判全然気にしてません!!!ドMですので!!!
(それに初めのss投稿ですしおすし…もうレスも付かないんじゃないかとヒヤヒヤしてましたし…

コメント一つ一つがありがたいです。
次書くときのカテとします。

試したいこと書きたいことやりたいことが色々あった結果、確かにグダグダですね、いやグダグダですよ!文句言いたくなるのも分かります!!!

ここから先もグダグダ続いちゃいますが、生暖かい目で見守ってください!!

あとこんなss応援してくれる皆さんありがとう!!
大好きです!!

505 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月19日 (月) 23:25:41ID: KuS6oNOe0

〉〉504

みたいですね…すいません…

622 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:03:15ID: DwtTtUvG0


司令室

提督「…そうか…青葉が…」

比叡「…はい、みんなの口ぶり的に、恐らく青葉さんがみんなに何かを吹き込んで…」

扶桑「…集めた冷静だった8人は、皆さん、入渠に向かってもらいました…」

山城「…どうしましょう提督…?」

響「川内さんも見つからなかったしね…」

提督「…内通者…か…」

考えなかったわけではないが、信じたくない可能性だった。

提督「…」

青葉は、あの皆がおかしくなってる状況下でも平気な顔をしていた艦娘の一人である。
…私はあと3人、同じように平気だったものを知っている。

提督(大井と不知火は…違うな。不知火は半ば影響下にあったし、大井はこちらが洗脳下に置かれてる可能性を指摘した。黒幕ならわざわざその可能性を話すことはないだろう)

提督(…となると…)

扶桑「いかがいたしますか提督…。今まともに戦える艦娘は、ここにいる四人と、帰ってきた島風さんしかいません。…雷さんとかも含めるなら、もうすこし戦力が増えますが…」

提督「…ダメだ…。自爆特攻、自傷組は戦闘に加えることはできない。なにをしでかすか分からないからな…」

山城「他の鎮守府に応援を要請してみては…?」

提督「…間に合わないだろうな。…ここは辺境鎮守府だ」

響「どうするんだい?司令官。…敵はきっともうすぐそこまで来てるよ…」

目をつむり、逡巡する提督。

やがてゆっくり目を開いた彼は、しぼりだすような声で、ゆっくりと語った。

提督「…鎮守府を捨てよう…」

623 : 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2016年09月22日 (木) 00:03:57ID: DwtTtUvG0


響「…え?」

山城「ッな!!?」

扶桑「ッ何を言い出すんですか!!!」

提督「まともに戦える艦娘がいない以上、これしか方法がない」

響「深海棲艦に本土への上陸を許すってことかい?」

提督「それは許すわけにはいかないさ。私たちの背中の後ろには何万人もの人の生活がかかってるんだ」

山城「…どうするおつもりですか…?」

提督「撤退戦を行う。敵大艦隊と交戦しながら徐々に前線を下げ、こちらの敗北を装いながら、鎮守府の中まで誘い込む。…敵が鎮守府に乗り込み次第、こちらは撤退。…そして」

提督「鎮守府丸ごと爆破する」

扶桑「…名案とは…言いづらいですね…」

提督「だが。これしか今の私には思いつかない」

響「時間もない、それでいこう、司令官、指示を」

提督「…あぁ、みんなよく聞いてくれ」

提督「これより、鎮守府爆破作戦を開始する」

624 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:06:35ID: DwtTtUvG0


明石「…」

提督『これより鎮守府爆破作戦を開始する』

明石「…」盗聴器off

明石「…」

625 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:07:36ID: DwtTtUvG0


川内「…はぁ…はぁ…」

足元に散らばる夕張の残骸。
火花が飛び、鉄の焦げる匂いが漂う。

川内「…わけがわからないよ…これは…ロボット?」

本物の夕張だと思った。
声を聞いても、本物の夕張だと思った。
戦って大破させて、それでも襲いかかってくる体を砕いて初めて気づいた。
飛び出すコード。
機械の関節。

…なんて精巧なロボットなのだろう。
青葉がこんな恐ろしいもの作れるはずがない。
こんなものを作れるとしたら。

川内「明石…明石なんだね。もう一人の内通者は…」

港で出会った、雷のセリフを思い出す。
背中に大量の機雷を背負う彼女は、一人海洋に出撃する寸前、川内と出会っていた。

川内(敵の大艦隊が近づいてきてる。動ける艦娘はほとんどいない。しかも明石と青葉が内通者。…提督は気付いてるかな…)

いやきっと彼なら気付いてる。
だからこそ、大人しくしていればいい内通者の青葉が動くほどの、不安の種が出来た。

川内(私が、提督のためにすべきなのは…)

明石を問い詰める。
青葉を追う。
向かってくるであろう深海棲艦を食い止める。

目の前には三つの選択肢。

川内(…どうする…)

626 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:09:13ID: DwtTtUvG0


ー工房ー

青葉「うえっ!?工房ボロボロじゃないですか!!?」

明石「この三人が暴れまくってくれちゃったからね」

工房ににげこんできた青葉を出迎えたのは、変わり果てた姿の工房だった。

無数の弾痕。
無数の破壊痕。

そして床に縛られて倒れる三人。

曙「…ッおのれ明石いい…!?」

霞「…ッ騙したのね…!!?」

神通「…明石さん…」

明石「あら?まだ口がきけたんですか…。でも驚きましたよ、まさかあの神通さんと相打ちになるなんて…」

曙「ッくそお…くそお…!!?」

明石「本格的に提督と合わせる顔がないですね、この二人は。提督を傷つけた挙句、黒幕を助けて、なおかつ味方をぶっ飛ばしたんですから」

曙「ッ…!?」

霞「ーーッ」

悔しさにおのれの不甲斐なさに、ボロボロと涙をこぼす二人。ただ提督が好きだった。
提督に嫌われたくなかった。
それだけなのに、どうしてこうなってしまったのだろう…。

神通「いいえ、二人は悪くありません。悪いのは二人の…みんなの気持ちを弄んだ挙句、二人を騙した明石さん、あなたです…!!!」

睨みつける神通に明石はへらへらと片手を振る。

明石「おー怖い怖い、まぁそんなこと言っても結局、いつの世も騙される方が悪いんですから。私は悪くありませんよ」

曙「ッどうしてなのよ明石…どうしてアンタが…!?」

霞「ッいつからなの…?いつから内通者だったの!?今までみんなと一緒に、笑って、泣いて、心配してくれて、直してくれて、新しい武器を作ってくれて…。あれは全部嘘だったの!?」

明石「だったらどうしたというんですか?」

霞「ッーー!?」

明石「あなた達にはしばらくここで大人しくしてもらっておきます。…青葉、行きますよ」

青葉「はい!」

霞「ッ明石いいいい!!!!」

627 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:10:19ID: DwtTtUvG0


響はうろたえていた。

響「正気かい?司令官」

提督「正気じゃないさ、だから出来る」

放送室。
マイクを片手に、襟を正す提督に、響は最終確認を取る。

響「本当に、鎮守府中の艦娘に、爆薬運びを手伝わせるんだね」

提督「そうでもしないと、敵が来るまでに間に合わないだろう?お前達だけで運べる量じゃない」

響「でもこんなもの使ってみんなに命令したら、明石や青葉に計画がバレちゃうよ」

提督「…元よりきっとバレているだろう」

響「…ッなら!?」

提督「…大丈夫だ、秘策はある。…それに現場まで行って命令してたら、話は全く進まないだろう。一方的に話して、命令できて、なおかつ準備もできる、この方法がベストだ」

響「…ハラショー。そこまで言うなら、司令官の指示に従うよ」

提督「…さて、緊張するな。だが押し黙る時間がもったいない」

スイッチを入れる。
息を吸い込む。

提督「始めるぞ」

628 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:11:38ID: DwtTtUvG0


司令室の机の上の無線機の前。
山城と扶桑は提督の指示で、椅子に腰掛けながら、無線をかけ続けていた。

山城「…どうですか扶桑姉様…」

扶桑「だめね…戦艦の四人にも、空母の四人にも、連絡がつかないわ…」

山城「…無線機をそもそも持って行ってないとか…?」

扶桑「…いえ、それはないわ。恐らく、向こうの無線機が壊れたか、何らかの理由で、出ることができないか…」

山城「…困りましたね…」

扶桑「諦めてはダメよ山城」

扶桑はキリリッと表情を引き締めて、目をつむり、人差し指を頭に当て、考える。

扶桑(考えなさい、扶桑。もう不幸だと理由をつけて諦める時代は終わったの。…諦めちゃダメ。私はもう不幸なんて言わない…!!)

そして目を開いた扶桑は、一拍おいて、無線機に向かって言葉を放った。

629 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:12:32ID: DwtTtUvG0


扶桑「…第三砲塔から煙が出てますよ?」

山城「…姉様?」

扶桑「…大和ホテル、大和ホテルやーい」

山城「姉様!?」

扶桑「褐色猫耳サラシメガネビッチ」

山城「ねえさまあああ!!?」

扶桑(どれもダメかえええい!!これならどう!!?)

扶桑「駆逐艦パンツ!!!」

長門『ッ詳しく!!』

陸奥『長門おおおおおお!!?ッそんな返答してる余裕ないでしょおおおおおおお!!??』

大和『扶桑さん!?全部聞こえてますからね!!?』

山城「さすが扶桑姉様!!なんという発想!!山城感激いたしました!!」

扶桑「…さすがにこの結果は我ながらドン引きします…」

陸奥『とにかく!!今交戦中だから!!!また後でかけ直して!!!!』

ブツリと通信がキレる。

伝えたいことは何も伝えられなかった。

扶桑「ふふふ…不幸だわぁ…」

山城「姉様!?そんな事ありません!!安否の確認ができただけでも大金星ですよ!」

なだめる山城、うなだれる扶桑。
次は正規空母に無線をかけなければ…

630 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:13:44ID: DwtTtUvG0


ー 数刻前 太平洋上ー

絶望とはこういうことを言うのだろう。

雪風は沈んで、深海棲艦となって私達に復讐しに来た。

砲弾を避ける。
反撃は…できない。

レ級「ドウシタドウシタ!!ウッテコイヨ!!」

武蔵「くっ!!?」

彼女を攻撃することなんて。
出来るはずがない。

もう一度冷たい海の底に沈めて。
いいはずがない。

大和「ッ許してください雪風さん…!!?私は…ッ私はッ…」

陸奥「大和!!?」

レ級が飛ばした魚雷が、大和に炸裂する。

大和「ッつ!!!?」ドゴーン

長門(これはきっと罰なのだろう…)

長門は思う。
どれだけ謝っても、どれだけ償っても、けっして許されることではないことを私達はしてしまった。

提督の左腕を引きちぎり。
雪風を沈めてしまった。


元よりこの海には死にに来たのだ。

ここで、雪風の怒りをすべて受け止めて、海に沈むのが正しい道なのではないだろうか。

陸奥「ッ雪風!!?」

…いや、これはもしかしたらチャンスなのかもしれない。
けっして向かい合って謝れるはずのない相手に謝れるのだから。
謝罪できない相手に、謝罪できるのだから。
決して許されない。
そんなことはわかっている。

大和「ッ長門…!?」

陸奥「武蔵……」

レ級「ン?」

長門と武蔵の二人は。
海面に頭をつけ。

土下座した。

長門「わかってる…決して許されないことをしたのは分かっている…。お前のその怒りも、悲しみも、苦しみも、憎しみも、全部私たちのせいだと…!!!」

武蔵「すまなかった…!!すまなかった雪風…!!私はどうかしていた…。どうかしていたんだ…。それが許される理由にならないのは分かっている…。許してくれなくて構わない、だが言わせてくれ!!!…雪風、本当に、すまなかった…ッすまなかったァ…!!!!」

631 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:14:40ID: DwtTtUvG0


レ級「…」

二人を見つめるレ級はため息をつき。
砲を下ろした。

長門「ゆき…かぜ…?」

レ級「…ツマラナイ」

レ級は。
地団太踏む。

レ級「ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ!!!。ナンダヨナンダヨ、相手ヲ一方的二痛メツケルノッテ、コンナニツマラナイノカヨ!!!」

レ級「今ワカッタヨ!!私ガシタイノハ、オマエタチヲ倒スコトジャナイ。血湧キ肉躍ル戦イソノモノナンダッテ!!!」

武蔵「…何を言って…」

レ級「ダイタイオマエラ、ソロッテミンナ、バカスギダ!!!駆逐艦ガ戦艦二、ナレルハズガナイダロウ!!!!」

陸奥「ま…さか…」

長門(清霜…)

大和「ではその雪風さんの双眼鏡は…!!?」

レ級「アハハハハッ!!コレ!?コレハネ!!!」

武蔵「ッ奪ったんだな…」

ゆらりと。
武蔵が立ち上がる。

レ級「イヤチガ…」

武蔵「沈んだ雪風から奪ったのだな貴様あああああああああ!!!???」

吠える。
武蔵の砲塔がいっせいに立ち上がる。

武蔵「ッ許せぬ!!雪風の形見!!!返してもらうぞ!!!これ以上決してあいつの死を傷つけてなるものか!!!!形見を取り返し、鎮守府まで届け、私は再びここで死のう!!!」

レ級「イヤダカラサ…ン、マァドウデモイイヤ☆。ヤル気出シテクレタミタイダシ」

大和「ッ許せません…!!!雪風さんの双眼鏡!!!返してもらいます!!!」

陸奥「行くわよ!!!」

長門「ッビックセブンの力、思い知らせてやろう!!」

レ級「アハ☆カカッテコイヨ!!ゼンブヒネリツブシテヤル!!ウミノソコニ沈メ!!」

632 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:15:49ID: DwtTtUvG0


扶桑と山城は相変わらず無線機と格闘していた。

扶桑「牛飲馬食」

扶桑「大盛りカツカレー」

扶桑「素直になれない五航戦」

扶桑「上から目線の翔鶴」

扶桑「…だめね、思いつく限りの悪口言ってみたけど、正規空母の皆さんの反応がないわ…」

山城「大盛りカツカレーは悪口なのでしょうか…」

扶桑「これは間違いなく、正規空母は四人とも負傷破損して、無線に出られない状態ね。提督に伝えておいてちょうだい。正規空母四人、連絡とれず、危険な状態っと」

山城「はい!扶桑姉様!」

633 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:17:15ID: DwtTtUvG0


そして提督の流した鎮守府内の放送は…。
果たして、劇的な効果を上げていた。


暁「どいてどいてえええ!!暁が1番爆薬運んで、褒められるんだからああ!!!」

提督「え…えらいぞ暁。だが慎重に運べ?…何かの拍子に引火したら洒落にならんぞ…」

暁「……」ジッ

提督「…!え…えらいぞ暁!よく頑張ってくれてる」ナデナデ

暁「えへ!えへへへへ!!!見ててね司令官!!!暁もっともっと運んじゃうんだから!!!」ドタドタ

龍驤「て…提督…」ビクビク…

提督「龍驤!!」

龍驤「艦載機から全部爆薬と弾薬抜いておいてきたで……ほな!!」

提督「待ってくれ龍驤!?」ガシッ

龍驤「ッ!!??」

提督「ッあの時はすまなかった…。私が浅はかだったせいで君を傷つけてしまった…!許してくれ、怖かったんだ…また君に嫌われるのが…!!」

龍驤「ッてい…とく…ズルイでこんなん…!!?こんなん…ますます好きになってしまうやん…!!??」

龍驤「ッ見ててな提督!!私、もっとお仕事したるさかい!!!」

駆けてく龍驤を提督は手を振って見送る。

634 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:19:45ID: DwtTtUvG0



次にふらりと現れたのは。
北上だった。

北上「あ…提督…提督だぁ」

提督「北上!?その額の傷、お前まで自分を傷つけたのか?!!」

北上「」グイッ

提督「ムッ」

北上「…あんな放送じゃイヤだよ。私だけを見て、私の目だけを覗いて…。そして囁くように命令して…。そしたら私は、提督のどんな願いも叶えてあげるから…」

提督「ばばば…爆薬運びをお願いしましゅ…!!」

北上「了解だよ…ちゃんと出来たら褒めてね、提督?」

提督「」

響「良かった。思ってたより混乱が少なくて。みんなも提督の登場でかえって落ち着いたみたいだ」

提督「響さんや…。みんなの目が心なしか怖いっていうか、なんていうか…」

響「提督はこの目が好みかい?」ハイライトオフ

提督「」

響「スパシーバ、冗談だよ」

提督「し…心臓に悪すぎるぞ…」

島風「みんなおっそーい!島風が1番早いんだから!!!」

635 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:21:11ID: DwtTtUvG0


響「順調だね。作業はだいたい60%は完了。このペースだとあと15分程度で80%まで持っていけると思うよ」

提督「よし、名簿の方は?」

響「今、妙高さんに確認を進めてもらってる。見当たらない艦娘はまだ何人かいるけど、出撃記録を見た感じ、暁みたいに単艦出撃した艦娘はほとんど無事帰還したと思うよ」



妙高「恋敵がひとーり…恋敵がふたーり…ふふ…ふふふふふふふふ…いない子は誰かしらぁ…」


提督(何も見なかったことにしよう…)

雷「機雷を全部置いてきたわ!!司令官!!」

提督「ッ雷!」

雷「…ねぇ響?どうしてずっとそこにいるの?どうしてあなたがずっと司令官の側にいるの?あなたも機雷を運びなさいよ、じゃないと嫌いになるわよ、それとも機雷で嫌い嫌いされたいの?」

提督「ッ雷!!」

雷「!!何かしら司令官!!お仕事!?お仕事なのね!!!もっと雷に頼って依存していいのよ!!!」

提督「…私は、機雷を運んでくれる子が、大好きだぞ?」

雷「!あはぁ?私がぴったりじゃない!!いいわいいわよ!いくらでも運んであげる!!響はずっとそこにいなさい!!私が全部の機雷を運ぶんだから!!!」

響「…これはハラショー。司令官、どんどん扱うのが上手くなっていくね」

提督「なんだろう…あとが怖い…」

響「じゃあちょっと機雷を運んでくるよ」

提督「ちょっと待て」

636 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:22:14ID: DwtTtUvG0


金剛「Hey!!テートク!!」

提督「どわあああ!!?金剛!!?お前は無茶するな!!!一番重症なんだから!!」

金剛「No ploblem!!テートクの役に立つためなら、この車イスひしゃげても、爆薬を運ぶ覚悟ね!!!」

提督「ひ…比叡!キチンとヤバそうだったら取り押えるんだぞ!!」

比叡「気合い、いれて、いきます!!」

提督「聞こえてない…!!」ヒエエエエッ

榛名「て、い、と、く?」

提督「ホワッ?!!榛名!!…良かった!!おまえは自分のことを傷つけてなかったんだな…。金剛がこの有様だから心配したぞ…」

榛名「えぇ…榛名は大丈夫です…でも」ゆらり

提督「おっと」ポスッ

榛名「ーッ」押し倒し!!

提督「ヒエエエエッ!!?」

榛名「榛名は…榛名は傷が欲しいです!!…傷付けて欲しいです…!!!…さぁ提督…榛名の体に一生消えない傷を…」

霧島「ふん!」チョップ!

榛名「なっ!?」

榛名「」カクンッ

提督「た…助かったよ霧島…」

響「…さぁ早く、この淫乱高速戦艦を司令官から剥がしてくれないか、不愉快だ、すごく不愉快だ」

霧島「それはご迷惑おかけしました…。いくわよ榛名」

榛名「うぅ…ていとくうう…」

提督「…相変わらず嵐みたいな四姉妹だったな…」チラッ

響「!!な…なんだい、司令官…そんな風に見つめられても困るよ…僕はまだ小さいんだ、無論、興味がないわけじゃないけどね」

提督「…うーん、やはり大天使は扶桑姉妹か」

響「…他の女の話はしてほしくないな?」

提督「はひ!!」

637 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:23:10ID: DwtTtUvG0


手の上でスイッチを転がす。
薄汚い地下室。
青葉はそわそわしながら、鎮守府中の監視カメラを写したモニターを眺め、私がこのスイッチを押すのを今か今かと楽しみにしてる。

明石(ほんっと、悪趣味なやつ)

そんな青葉を横目で見ながら、私は机の上に置かれた写真を手に取った。

そこには私と夕張が肩を組んで、工房の前で、笑顔で写っている。

…この世界は丈夫だ。
たくさんの人が支えあって、共に生きている。

これは素晴らしいことだ。
たくさんの人が支えあって生きてるからこそ、不必要な人なんて決していなくて。
簡単には壊れない人と人の絆があるからこそ、人の社会はそう簡単には壊れない。

でもだからこそ。

一人欠けても、世界は何も変わらず回っていく。

自分にとってはどれだけ大切な人でも。
それ以来、自分の時が止まってしまっても。
世界は平気な顔して今日も進んでいく。

欠けた悲しみはいつか消え、欠けた怒りもいつか消え、何気ない普段の日常の中で、その人を忘れてしまっている自分がいることにふと気づく。

それがたまらなく悲しくて。
忘れてしまう自分がイヤで。
忘れないように自分に刻み続けて。

…きっと私は刻みつけ過ぎてしまったのだろう。

悲しみは日を置くごとに増し、怒りは朝が来るたびに倍に増え、そんな私をおいて周りは悲しみも怒りも忘れていくことにさらに怒りを感じ…

この気持ちは誰にも理解できない。

私にだって理解できない。

願わくば、私の理不尽な八つ当たりで。

少しでも多くの人が傷つきますように。

639 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:24:01ID: DwtTtUvG0


木曾「すまねぇ…恩にきる…!!!」

波打ち際。
横に並び横たわる四人。

五月雨、村雨、白露、涼風。

不知火「…大丈夫でしょうか…?」

大井「寝ているだけよ、呼吸は安定しているわ。命に別条はない」

木曾「ほんとに…なんて…お礼を言ったら良いか…ありがとう…!!」

大井「…らしくない真似して…。ほら、あんたも横になりなさい。そこの四人と負けず劣らず重症なんだから」

大井に寝かされるように転がされた木曾は、しかし、すぐに寝息をたててしまった。

不知火「…寝てしまいましたね…」

大井「張り詰めてた緊張からやっと解放されて安心したんでしょう。…たんにものすごい疲労したっていうのもあると思うけど…」

不知火「…どうしますか…?」

大井「すぐに入渠させたいけど…鎮守府までの足がないわ。提督に車で迎えに来てもらうのを待つか、最悪ヒッチハイクね」

不知火「…大井さん、ここは任せても…?」

大井「…先に行きたいのね?」

不知火は頷く。
そうだろう。
きっとこの娘ならそう言うと思った。
変なスイッチの影響を受けながらも、提督への愛を忘れなかった頑固さ。
どれだけ人を好きになれば、そんなことが可能なのだろう。

大井「いいわよ、でも条件があるわ」

パッと顔を輝かせた後、顔を曇らし、オドオドとする不知火。

不知火「条件とは…なんでしょう?」

大井(まったくかわいいんだから…)

大井は不知火に指を突きつけて言う。

大井「必ず無事に鎮守府にたどり着くこと!…あと、私のことは大井さんじゃなくて、大井って呼ぶこと!…いいわね!」

不知火「ッ!!分かりました!!大井!!…駆逐艦、不知火、行ってきます!!!」

海に駆け出す不知火の背中を見送る。

大井(はぁー、まずいわ。早く北上さん成分を補給しないと、ぬいぬいに、ぬいっぬいにされちゃう…)

隣の五人が寝てて良かったと。
頬を染める大井は手を振り不知火を見送った。

640 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:25:59ID: DwtTtUvG0


鎮守府の中庭。
慌ただしく作業をしていた艦娘達は一息つき、響が花壇に腰かける提督に近づいてくる。

提督「…」

響「司令官、爆薬の配置が終わったよ。艦隊の編成も万全さ。動ける艦娘は所定の位置に。怪我の大きな艦娘は、すでに鎮守府から退避させてるよ」

提督「…名簿は?」

響「妙高さんが完成させてくれたよ。いないのは、曙、霞、神通、川内あと…」

提督「…まさか吹雪か…?」

響「ハラショー、ご名答。その通りだよ」

提督「…吹雪…」

響「敵はなぜかまだ攻めてきてない。…捜索する時間はあるけど、どこにいるかが検討がつかないね…」

提督「曙、霞、神通、吹雪…あいつらはああ見えて、きちんとモノを考えてるタイプだ…。自暴自棄になって己に刃を向けるのではなく、むしろ、敵に刃を向ける性格をしている」

響「…敵…」

提督「そうなると、2パターンだ。おそらく…みんなを洗脳する攻撃をしたであろう深海棲艦のほうか、内通者の明石か青葉か…。出撃する姿を誰も見てないことから、彼女たちが刃を向けたのは内通者の方だろう」

響「明石さん…青葉さん…」

提督「…そして帰ってこないところを見ると、恐らく人質か捕虜、いづれにしろ囚われてる可能性が高い…」

響「ッ!?そんな!?早く助けに行かないと!!?」

提督「…いや、慌てる必要はない。…解体されたり、殺されたりすることはないだろう…。こちらが、下手に手を出す方が、彼女たちを危険な状態にする」

響「…どうしてそう言い切れるんだい?」

提督「…まどろっこしいんだよ、相手のやり方が。今回のようなことが出来るなら、艦娘同士を敵対させて、内乱を起こすことだって出来ただろう。明石だって、わざわざ俺を助けずに、放っておけば、俺はのたれ死んだだろう」

提督は親指の爪を噛む。

提督「何かがおかしい。何かがあるんだ。…敵のこの遠回りな回りくどい作戦には。こちらの士気の低下や鎮守府の乗っ取り、本土上陸以上の何かが。こういうやり方をしなければならない理由が…!!」

響「…ハラショー。さっぱりだね」

641 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:26:41ID: DwtTtUvG0


提督「あぁ、さっぱりだ。だが、今回の一連の動きを見て、敵は積極的に自分たちから艦娘を傷つけるようなことはしてない。神通達も、囚われてはいるものの、命の保証はされているとみて間違いないだろう」

提督「…まぁ、ただ単に、俺がまだ明石と青葉を信用したいっていうのも理由なのかもしれないけどな…」

響「…」

提督「さて、それじゃあ命令だ。工房以外の場所に四人がいないか念のため捜索、確認してくれ」

響「…了解だよ」

提督「…あとは川内か…」

響「…困ったね、撤退作戦でも、川内さん一人いればずいぶん楽になるんだけど…」

提督「…俺の方で川内は探そう。扶桑!山城!」

扶桑「やっと呼ばれたわ…」

山城「小さい子の方がいいのですか…そうなのですか…?」

提督「二人は俺と一緒に来てくれ」

扶桑「わかりました」

山城「了解です」

642 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:28:15ID: DwtTtUvG0


薄暗い地下室に引きこもり続けている明石は、目元をこすった。
無線機の相手に面倒くさそうに話しかける。

明石「はいはい、というわけでこちらの鎮守府の作戦は、鎮守府丸ごと吹っ飛ばして、上陸してきたあなた達を吹き飛ばそうという作戦よ」

深海提督『…びっくりするほど野蛮な作戦だな…。だがそれゆえに予測ができない。なるほど、危なかった』

明石「でも稚拙よ。吹き飛ばすと言っても爆薬や弾薬をそのまま配置しただけ。ここから遠隔操作して、火災対策用のスプリンクラーを作動させるだけで、湿気て使えなくなるわ。提督の目論見は失敗」

深海提督『うーん、やっぱり持つべきものは内通者だね!!スプリンクラー、よろしく頼むよ!!』

明石「ええ」

深海提督『あと、そっちの提督と、艦娘の間の絆を、徹底的に破壊するのを忘れるなよ?。…まだスイッチはあるんだろ?』

明石「もちろん、忘れないですよ。与えられた命令はこなしますとも。工作船の名にかけて」

深海提督『全部の仕込みが終わったらすぐ連絡してくれ。こちらはもう、そっちの鎮守府が浮上すれば見える位置にいる。…いつでもいけるぞ』

通信が切れる。

643 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:29:13ID: DwtTtUvG0


明石「さて」

役者は揃った。
こちらの準備も整った。

青葉「ねぇ、明石さん!!スイッチを押していいんじゃないですか!?そろそろ!!はやく!!ねぇねぇ」

明石「うるさいわ、少し静かにしてなさい」

ブーたれる青葉を無視して、最終確認を進める。

明石(…あの提督はバレたくない作戦を内通者にバラすようなヘマをしない…)

明石の頭をよぎるのは、我が辺境鎮守府の提督。

明石(あいつは、もとより作戦を秘匿する気は無かった。それよりもこちらにその情報を渡すことで、それしか作戦がないように思わせることを優先した)

明石(作戦の内容も稚拙だ。こんなスプリンクラーごときでダメになる作戦を、あの提督は立案しない)

つまり、この作戦は。

明石(デコイ。本当の作戦は別にある)

明石は笑う。

明石(本当の、本命の作戦…検討はつく)

各鎮守府の地下には。
艦娘は誰も知らない、提督しか知らない、秘密の部屋がある。

その部屋に備えられてるのは。
鎮守府の自爆スイッチ。
もし敵に鎮守府が乗っ取られても、そこに重要な機密を残さないように、深海棲艦側にこちらの技術が盗まれないように。
取り付けられた秘密のスイッチがある。

つまり、提督は。

明石(地上の爆薬を私が無力化し、安心しきった深海棲艦が上陸してきたタイミングで、このスイッチを使って鎮守府ごと吹き飛ばすつもりだ)

明石は笑みが零れるのを止められない。
わかる。
あの提督の考えが手に取るようにわかる。

提督は知らないだろう。
まさか、そのことを私が知っているとは。

644 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:29:54ID: DwtTtUvG0


青葉「明石さーん、もしもーし」

明石「まずは、スプリンクラーを発動させて上の爆薬を無力化するわ。…そして、スイッチを押して、提督と艦娘の間の絆を破壊する」

青葉「むおおお!!ワックワクが止まりません!!」

だが、明石は、隠された二つ目の爆弾があることを深海提督には教えない。

明石(…夕張…)

その目は復讐に燃えていた。

645 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:31:52ID: DwtTtUvG0


夕張と明石は鎮守府の中でも特別仲がいいことで有名な二人組だった。
そんな二人だったのだが。

…1年半前。
ちょうど、青葉がこの鎮守府に訪れた頃。

夕張が沈んだ。

遠征中に突然襲われたらしい。

あまりに唐突な出来事に。私の目の前は真っ暗になった。
夕張のいない工房はだだっ広くて。
港でどれだけ泣いても、彼女は帰ってこなかった。

提督も他の艦娘も、初めは悲しんでいた。
泣く子がいた。取り乱す子がいた。
提督も自分の采配ミスだと、深く自分を責め続けていた。

…でも。
彼らは立ち直っていく。
時が経つにつれ、より強く。よりたくましく。
もう誰も沈めないようにと。
結束を強くしていく。

私を置いて。

私の悲しみは消えないのに。
この怒りは増え続けるのに。

彼らは夕張のことを。忘れている。
それがたまらなく許せなくて。
どうしようもなくて。
夕張を沈めた深海棲艦に対する怒りも、周りの仲間に対する怒りも、やがて同じくらいになって。

頭がどうかにかなりそうになっていた時に。

646 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:32:40ID: DwtTtUvG0


青葉が、深海棲艦側の内通者であることがわかった。

問い詰めたら、青葉はすぐに震えながら白状した。

深海棲艦のこと。
自分が内通者であること。
そして。
深海提督の存在を。

…私は青葉に協力を申し出た。
初めこそ、半信半疑の青葉と深海提督だったけど、私が横流しする武器と情報で次々と勝ち星を挙げ、あっという間に彼らは私を仲間だと認識した。

私は従順な犬として、深海提督に仕えた。
機密を奪い、技術を伝え、戦術をバラした。

そうして、私は。
確かな信用と信頼を獲得した。

あとは簡単だ。
どうにかして深海提督と直接会い、この手で夕張の仇を討つ。
そしてこの戦争を終わらせる。
夕張の死を無駄にしないために。

機会を探った。
タイミングを伺った。
チャンスは一度。
いくつもの作戦を立て、いくつもの念密なシュチュレーションをした。

そんなある日。
深海提督側から、艦娘と提督とよ間の絆を破壊せよとの命令が来た。

訳が分からない。
深海提督は何を考えているのか。
ただ一つわかった。

ー これはチャンスだ ー

夕張を殺した仇にも。
夕張を馬鹿な作戦で殺し、夕張のことを忘れて楽しい日常を過ごしている提督と艦娘共にも。

同時に復讐できる最大のチャンスだと。

夕張を殺した、深海棲艦のトップ、深海提督には死んでもらう。

そして。
夕張のことを忘れた提督には、死ぬ寸前まで傷ついてもらう。

そして。
艦娘共には、大切な人との繋がりが切れる悲しさを苦しさを辛さを、もう一度思い出させてやる。

全部グチャグチャにかき混ぜて。
敵も味方も皆壊す。

明石(さぁ、始めましょう)

迷いはない。後悔もない。

明石(復讐の始まりです)

648 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:33:25ID: DwtTtUvG0


深海提督「いよいよだな…」

海の底。
多数の深海棲艦と共に潜行している深海提督はここにきて、ようやっと緊張の表情を見せた。

深海提督「明石はキチンと、艦娘と提督の間の絆を、破壊し尽くしてくれただろうか…?」

気がかりはそれだけだ。

ソ級が運んできた紅茶を受け取り、すする。

ヲ級elite「準備ハ、デキテル」

深海提督は振り返る。
こんな自分のわがままに付き合ってくれた仲間たち。
その全員に感謝を伝える。

深海提督「みんなありがとう。こんか私についてきてくれて…」

そして改めて表情をキリリと引き締めた。

深海提督「これより、今作戦の最終確認を行う」

艦隊に緊張が走る。
深海提督の号令のもと、確認作業が始まった。

649 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:34:28ID: DwtTtUvG0


深海提督「紅茶!!」

ソ級「モンダイナシ」

深海提督「お茶菓子!!」

リ級「タップリ」

深海提督「ツイスターゲーム!!」

タ級「イツデモデキルワ」

深海提督「イスは足りてるか!!清掃は行き届いてるか!!」

ネ級「オッケー」

深海提督「全員!!心に持つべきものは!!!」

深海棲艦's『オ モ テ ナ シ!!!』

深海提督「よーし…」

ソ級「ドウゾ…沈ンデイタ客船カラ拝借シタ鏡デス」

深海提督「でかしたソ級…ッ!!?これが私か!!?髪がボサボサではないか!!?」

ソ級「話シ方、可愛ク、オメカシモ、シナイト」

深海提督「む…胸もないな…。まるで貞子ではないか…。どうしよう、自信がなくなってきた」

リ級「髪ハ私ミタイニ、短クマトメチャエバ?」

深海提督「いや、時間がないし、冒険する勇気もない。髪はとかすだけにしとこう。…もしかしたら、彼はロン毛好きかもしれないし…」

鏡の前でワタワタと髪をとかす深海提督。
深海棲艦達はその様子を温かい目で見守る。

深海提督「よし。…よ、よーし…!。全員準備はいいな!!これより、我らが最後の作戦!!!」

深海提督(♀)「『ドキッ!!提督強奪!!略奪愛だよ全員集合!!!』作戦の最終ミーティングを始めるぞ!!!!」

深海棲艦's『おおおお!!!』

650 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:35:21ID: DwtTtUvG0


あれはいつの頃になるのだろうか。
まだ私の左手が、今のカニみたいな手ではなく。
肌は白くなく。
目は青くなく。

…そう、海に沈む前、人間の少女だった頃。

私は一人の男の子と友達になった。

たった1日。
たまたま海岸であって、一緒に遊んだだけ。

でもすごく楽しかった。
彼はキラキラしていて優しくて。
私は彼に恋をした。


もっと早くこの少年と出会えればよかったのに。
…というのも。
私は彼と友達になったこの次の日には、ここから遠く離れた離島に引っ越さなければならなかったのだ。
私は運命を恨んだ。

別れ際。
まだ一緒に遊びたいと泣く私に、彼は貝殻のネックレスを差し出す。

少年『…いつか、いつか絶対また会おう!!』

少女『ほんとに…!?約束だよ!!』

少年に抱きついて、勢いでキスして。
顔を真っ赤にする少年に、そのまま、次会ったら結婚しようと告白する。

少年「…ッ!?…う…うん!!??」

夕日の海岸。
ゆでだこみたいな少年と私は別れ。
貝殻のネックレスを首から下げた。

そして翌日。

私の乗っていた船が沈んだ。

651 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:36:28ID: DwtTtUvG0


深海提督「……」

深海で目を覚まし、右も左も何もわからなかった私を、助けてくれたのがこの子達だった。

彼女達は艦娘という奴らにいじめられて、いつも傷ついて帰ってきた。

それがたまらなく悔しくて。
私は必死に、彼女達が沈めた船から本や船自体から、知識を、貪欲に、貪った。

この子達に傷ついて欲しくない一心で。
ただ浮かび戦うこの子達に戦術を授けた。

効果は劇的だった。
深海棲艦のみんなは戦術を得たことにより、以前よりぐんと傷つくことが少なくなった。

そうこうしてるうちに。
私の噂を聞いて遠い海からも深海棲艦が訪れるようになり、その度に私は戦術を授け、私は大きくなっていった。

いつしか深海提督と呼ばれるようになる頃には、陸の人たちにだってパイプもあるし、仲間も数え切れないくらいいるし、自分で言うのもなんだが、なんだかすごい組織のトップになってしまっていた。

トップに就任して、しばらく。

私の友達の青葉から、びっくりする情報が届く。

いわく。
私がよくみんなに話す、幼い頃、結婚の約束をした少年によく似た人物が。
提督をやっているのだという

提督に青葉が伺うと。

いわく。
昔、結婚を約束した女の子を深海棲艦によって海に沈められ、それを機に、深海棲艦と戦うために、提督業についたと。
…聞いてすぐは嬉しいような悲しいような、非常に複雑な気持ちになったものだ。

653 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:37:17ID: DwtTtUvG0


とにかく、話だけで確信を持てた。
間違いなくその提督はあの少年だ。
私はすぐに会いに行こうとしたが、深海棲艦のみんなに取り押さえられる。

そりゃ、確かに。
今の私は人のような見た目をしていない。
加えて彼は、私たちの敵の親玉だ。
そう簡単に会うことすらできるはずがなく。

また、あったとしても。
…今の私は人ではない。
左手はカニのようだし、目は青だし、肌は死体のように白い。

彼は今の私には恋は出来ないだろうと私は悟る。

私は身を引いた。
悔しいけど。
悲しいけど。
こんな化け物の私と彼はくっつくべきではない。

そう考え、毎晩枕を涙で濡らしていた。

…そんなある日。

青葉から衝撃的な事件が伝えられる。

654 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:38:49ID: DwtTtUvG0


その名も結婚カッコカリ。

いわく。
憎き艦娘と提督がケッコンするシステムだという。

私は怒りに燃えた。
そりゃ、彼が他の人とくっつく分には構わない。
だが、彼が艦娘とくっつくことは、どうしても許せなかった。

しかも、青葉いわく、彼は昔と変わらないその垂らしっぷりで艦娘のこのほとんどの心を奪っていると。

ケッコンするのは秒読みだろうと。

私は泣いた。
たまらなく悔しかった。

あまりに。
あまりに私の人生は報われないではないか…。

同情してくれる深海棲艦の友達達と。
意気消沈していると。

青葉が元気づけに来てくれた。

青葉『…そもそも、どうして諦めるんですか?』

深海提督『決まってるだろ…。私は化け物だ。…そして、あの人は人間だ。そして…。認めたくないが、艦娘達も、見た目は私たちよりずっと人間だ。…それに私とあの人は敵同士ではないか…!!』

青葉『ッそれがどうしたんですか!!!』

しかし、青葉は大声で怒鳴る。

深海提督『ッ!?』

青葉『恋に、諦めるなんて、言葉はありません!!!!』

深海提督『ッ!??』

青葉『最後まで押して押して押すのが恋です!!。その体燃え尽きるまで、突っ走るのが恋です!!。あの人は人間?…ならあの人にも化け物になってもらいましょう!!!…艦娘がいる??…絆を壊して仕舞えばいいんです!!…敵同士??…関係ありません!!略奪しましょう!!!』

それは私の持ってない感覚と知見だった。
私は青葉の言葉に乗った。

青葉『作戦の内容は簡単です。艦娘と提督の間の仲を引き裂き、意気消沈、心ボロボロの提督を強奪。深海に徹底的に甘やかし、深海ラブ勢になってもらいます。…これで深海提督は、晴れて提督とケッコンできるって寸法です!!』

深海提督『ッそんなに…うまくいくだろうか…』

青葉『いきます!自信を持ってください!!青葉にお任せ!!!』


そして始まった、
『ドキッ!!!提督強奪!!!略奪愛だよ全員集合!
!!』作戦。(命名 青葉)

もう私は後には引けない。

あの日貰った貝殻のネックレスを強く握りしめる。

ここで。
この恋にも。
戦いにも。
…決着をつける…!!!

657 : ◆VENk5mkP7Y2016年09月22日 (木) 00:40:47ID: DwtTtUvG0


今日の分以上です…

鬱々としたカタルシスを目指してたのにドウシテコウナッタ
明るい話書かないと腹が痛むんです、許してください…

次回更新は、明日の夜を目指します


このエントリーをはてなブックマークに追加  


関連記事

この記事のタグ
エロSS 作品一覧

101: 承認待ちコメント 2022/05/16 23:25
このコメントは管理者の承認待ちです
コメントの投稿




管理者にだけ表示を許可する

ブログ内検索

このページのトップヘ

ランダム記事
記事の中からランダムで表示します。
削除依頼

名前:
メール:
件名:
本文: